表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
麻痺無双!~麻痺スキル縛りで異世界最強!?~  作者: スギセン
3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/143

44話 静寂を破る角笛

翌朝。

 俺たちはまだ眠気の残る体を引きずりながら、林の中を徒歩で進んでいた。目的地は、例の採石場跡地。噂に聞いた「不穏な影」を確かめるためだ。


 朝日が木々の間から斜めに差し込み、湿った土の匂いが鼻にまとわりつく。風が吹くたび、枝葉が擦れ合ってザワザワとささやき合う。鳥のさえずりはかすかに聞こえるが、どこか落ち着きがなく、まるで何かを警戒しているようだった。


 ラヴィの腰に下げた刀が、歩くたびにカチャリと鳴る。その音だけがやけに耳に残る。ベルは口を結び、視線を左右に巡らせていた。

 俺も例外じゃない。胃の奥がじわじわと重く、吐き気とまではいかないまでも、得体の知れない不安が腹の底に溜まっていく。


 三十分ほど歩いたころ、林が途切れ、視界がひらけた。そこに広がっていたのは――静まり返った採石場跡地。


 山肌を抉った広場は、今や人の気配もなく、むき出しの岩と瓦礫が無造作に転がっている。あちこちに影ができ、陽は届くのに妙に薄暗い。風が吹き抜けるたび、岩肌から砂ぼこりが舞い上がり、乾いた土の匂いが鼻を刺した。


「着いた……」

 思わず呟き、仲間を振り返る。


「みんな、慎重にいくぞ」


 二人は無言で頷く。


 採石場の端には、布をかけた荷車が三台放置されていた。木材はひび割れ、荷台の刻印は商業ギルドのものだ。だが、積み荷は中身を奪われたのか、無惨に乱れている。


「あれ」

 ラヴィが前方を指差す。視線の先で、小さく動く影があった。


 最初は子どもかと思った。背格好が似ていたからだ。だが、数歩近づくごとに違和感が膨らんでいく。


 全身が錆びた銅のような赤茶けた色。額から突き出た小さな角。細く尖った耳と、黄色く濁った眼。


「まさか、あいつは……!」

「……ゴブリン、ですわね」


 ベルが即答する。

 ゴブリン――ファンタジーものでは雑魚扱いされがちな種族。だが現実で遭遇すると、その意味は違う。小さくても、人間並みの知性を持ち、武器を扱い、群れで行動する。つまり、普通の獣より何倍も危険だ。


 俺は腰のスタンブレイカーを静かに展開した。

「ベル、攻撃魔法の準備をしとけ。それから……万一のときは逃げろ」


「なっ、ワタクシの魔法で全滅させてやりますわ」

 いつもの調子で返すベル。その肩にラヴィがそっと手を置き、首を横に振った。


「……分かりましたわ。今回はあくまで調査ですからね」

 唇を尖らせつつも、ベルは頷く。


「だが、もしもの時はお前の一撃が必要になる。頼んだぞ」

「ふふ、もちろんですわ」


 俺たちは岩陰を移動しながら様子をうかがった。数分の観察で、ゴブリンが六、七体いると判明する。少数だが、ここで戦うか、報告に戻るか……判断に迷う。


 その時――ゴブリンたちが急に騒ぎ始めた。


 一瞬「バレたか!?」と息をのむが、どうやら違う。奴らは別の場所へ集まりだし、岩の間を抜けるように走っていく。そして――円を描くように並んだ。


 その中心に、何かが倒れている。


 近くまで目を凝らすと、それは人型の影だった。うずくまったまはまピクリとも動かず、息も絶え絶えの様子。ゴブリンたちはそれを殴り、蹴り、獣のような叫び声を上げている。


「マヒルさん、あれ!」

 ベルの声がわずかに上ずる。


「分かってる。でも……」

 助けるべきか、見捨てるべきか。一瞬の迷いが喉に詰まる。


 ラヴィは刀を抜き、短く言った。

「いつでも、いける」


 その声に背を押されるように、俺は息を吸い込み、決心した。やるしか、ないな。


「……みんな、いくぞ。うおぉぉぉぉ――【パライズ】! 【パライズ】!」

 茂みから飛び出し、次々と麻痺をかける。青白い光が走り、数体のゴブリンが痙攣し、その場に崩れ落ちた。


 ラヴィは麻痺していない敵に一瞬で迫り、首筋や胸を正確に切り裂く。彼女の動きはまるで獣。力ではなく、速さと精密さで敵を圧倒していく。


 ベルは後方で魔導書を構え、詠唱の寸前まで魔力を高めて待機している。その目には、油断の色は一切ない。

 俺もスタンブレイカーを振り下ろし、残りの敵を叩き伏せた。


 やがて、採石場は静まり返った――かに見えた。


 ブオォォォン! ブオォォォン!


 地の底から響くような低い音が、岩場全体を震わせる。角笛だ。


 岩陰から、新たな影が次々と姿を現す。その数は倍以上。手に刃物や棍棒を持ち、黄色い目が一斉にこちらを射抜く。


 さらに、その後方から二つの巨体が歩み出た。筋肉質の体躯に粗削りの大剣。皮の鎧をまとい、赤く光る瞳が俺たちを見下ろす。


「……ボス級、か」

 背筋を冷たい汗が伝う。


 戦いは、まだ始まったばかりだ。

最後まで読んでいただきありがとうございました!

感想、ブクマ等いただけると励みになります。

次回もよろしくお願いしますm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ