42話 ラヴィのご馳走日和
討伐したホーンラビット二体と、ついでに倒した巨大ウサギの死体を前に、俺たちは魔結晶と素材の回収をしていた。
俺的には解体作業はそんなに得意じゃないし、急ごしらえで買った百ゴルドのミニナイフも、そろそろ限界がきそうだ。
某ゲームみたいに、刃こぼれのしない便利な剥ぎ取りナイフが欲しいもんだ……。
一通り素材を回収し終えたところで、ラヴィが急に「待って」と言った。
顔を上げると、物欲しそうな視線を向けるラヴィ。
「どした? ラヴィ」
「このウサギ……食べたい」
俺とベルが同時に「え?」と声を上げた。ベルは眉をひそめ、指先でぴょんと死体を指し示す。
「ウサギって……このホーンラビットのことですの?」
ラヴィはこくりと頷いた。
「拙者の村、よくウサギ狩った。味、美味しい。懐かしい」
ああ、なるほど――そういうことか。
「ふるさとの味ってやつか。いいんじゃないか? なあ、ベル」
「……そういうことでしたのね。もちろんですわ! ……ワタクシはちょっと触れないですけれども」
笑顔のままベルが一歩後ずさる。おいおい、と思いつつも、俺だって肉を取り出すような技術はない。そんな俺たちの様子を察してか、ラヴィは刀を抜き、さらりと笑う。
「任せて」
そこから三十分――。
パンパンになった袋を抱えて、ラヴィがホクホク顔で戻ってきた。両手も服の袖も血だらけ。
「みて、すごい、いっぱい……!」
袋をがばっと開き、中身の生肉を見せつけてくる。まるで子どもが宝物でも見せるみたいに。
「う、うん、分かったから……とりあえず早く帰ってお風呂に入ろう、な?」
俺は視線をそらしながら言った。うん、良かったなラヴィ。でも見せなくていい。
その帰り道、俺は妙に生々しい匂いが鼻にこびりついたように取れなかった。
* * *
宿に戻ると、店主のミレナさんに事情を説明し、肉を調理してもらえないかお願いする。
「おやまあ! ホーンラビットなんて、なかなかのご馳走だよ。量もあるし……そうだ、他のお客さんにも出していいかい?」
「ぜひお願いします」
いやありがたい。二十キロはある肉だ、食いしん坊二人がいても確実に余る量だ。
こうして、その夜のメニューは急遽「ホーンラビット祭り」に決定した。
シャワーで血や泥を落とし、さっぱりした俺たちは食堂に集合。しばらくすると、厨房から香ばしい匂いが漂ってきた。鼻が勝手にそっちを向く。腹がぐぅっと鳴った。
「お待たせ!」
ミレナさんが大皿を運んでくる。
こんがりと揚がったウサギ肉の唐揚げ。皮はカリカリ、中はジューシーそうだ。
次に運ばれてきたのは香草焼き。ハーブの香りがふわっと鼻をくすぐる。
そして、最後に白くて甘い香りが漂うミルクシチュー。肉と野菜がとろとろになるまで煮込まれている。
「おお……!」
思わず声が漏れた。ラヴィは待ちきれない様子で尻尾をぶんぶん振っている。
「さあ、食べようか」
俺が言うやいなや、ラヴィは唐揚げにかぶりついた。カリッという音と同時に目を輝かせる。
続いてベルも優雅に……かと思いきや、予想以上の速さで口に運び始めた。もっしゃもっしゃ、という効果音が似合いすぎる。
(ラヴィは思い出補正も相まって進むんだろうけど……ベルはただの食欲なんだよなぁ)
俺も唐揚げを一口。
――うまっ!
肉はほろっと崩れ、噛むたびに甘みと旨味が広がる。ハーブの香りも相まって、フォークが止まらない。
鶏肉っぽい食感だけど、野性味があって肉を喰らってる!って感じだ。
「ラヴィ、どうだ?」
「うん、最高……!」
「最高ですわぁ!」
ベルは頬をいっぱいに膨らませながら答える。口元にソースついてるぞ。
「うん、確かにこれは最高だな」
「ふふ、だろう?」
ミレナさんが笑う。
他の客たちも口々に「うまい!」と声を上げていた。
「このお嬢ちゃんが狩った獲物だよ! みんな味わって食べなよ!」
そう言われてラヴィは、口いっぱいに肉を詰めたまま、もぐもぐしながら照れていた。
……ほんと、ハムスターみたいだな。
その夜、ラヴィが部屋に入る前にぽつりと呟いた。
「……また、狩りたい」
故郷を思い出すような、少し寂しげで、それでも幸せそうな声だった。
俺は腹も心も満たされながら、眠りについた――。
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