41話 お嬢様は今日も痛烈
鍛冶屋の試し斬り騒動から一夜明けた朝。俺はまったく気乗りしないまま、宿で身支度を整えていた。
昨日、俺たちが宿に帰るとベルから『実はワタクシ、新魔法を二つも会得しましたの!』と報告があった。
前回の新魔法は、謎の高笑いと恐怖の片腕召喚……魔法と呼ぶのも憚られるような代物だ。
いやぁ……本当、しょうもないことになりそうだ。
* * *
ベルはウッキウキで、街の外の平原へと先導する。
今日のクエストは角の生えたでかいウサギ、《ホーンラビット》二体の討伐だ。クエストがてら、新魔法をお披露目するらしいが……どうなることやら。
しばらく歩くと、日差しが心地よい、広大な草原に出た。風に揺れる草の波の向こう、ウサギのようなものがぴょんぴょん跳ねている。
「さて……着いてしまったが、いけるか?ベル」
「はい!今日はワタクシに任せてくださいまし!」
自信満々に答え、鼻をフンスと言わせるベル。
「……!ほら、来ましたわよ!」
草むらから、角が生えたうさぎ――ホーンラビットが姿を現した。ベルが胸を張って構えた。ベルの魔導書が唸りをあげる!
「いきますわよ!ワタクシの新魔法、【冷厳なる微笑】!」
そう高らかに叫ぶと、その口元はまるで氷のように冷たく、不敵な笑みを浮かべている。
「……で、どんな効果だ?」
俺が尋ねると、ベルは得意げに言った。
「これはですね、自尊心を傷つける魔法ですの。くらった相手は心が折れて、いたたまれなくなるのですわ!」
……俺のほうがいたたまれねえよ、と心の中でツッコミつつ、仕方なく見守る。ベルが両手を翳すと、冷たい風が吹き抜けるような空気が漂い、ホーンラビットの目が一瞬曇った。
だが、その隙をついてラヴィが刀を抜くと、一閃で一体のホーンラビットは倒れた。
「はやっ!」
ベルは口を尖らせて悔しそうだ。
「……うん。調子、いい」
どうやら、ラヴィの新装備の調子は良さそうだ。彼女は嬉しそうにピョンピョンと跳ねている。
そこへもう一体のホーンラビットが草むらから飛び出してきた。
ベルは切り替えて言った。
「ふふ、くらいなさいな、凝縮された水の力を!【暴波泡】!」
掌から水の球体がぷかぷかと浮かび上がる。その水の塊はバレーボール大ほどの大きさで、ホーンラビットの前にぽよんと転がった。
だが、ホーンラビットは軽やかにそれを避けて、こちらに突進してくる。
「な……よ、避けられたですわ!」
「当たり前だろ!!」
俺はすかさず【パライズ】のをかけ、動きを止める。すかさずラヴィが切りつけ、一撃で倒した。
「……ベルぅ?今のは?」
俺の呟きにベルは首を傾げた。
「あ、あれ?おかしいですわね?私のイメージでは、あの水の塊が強烈な一撃になるはずでしたのに……」
はあ、"こう"なる予想はしていたけれども……そのまま素材を回収して帰ろうとした時、茂みの奥から何か大きな影が現れた。
姿を現したのは、ホーンラビットよりもずっと巨大で、捻れた二本の角をもつウサギだった。その巨体を揺らし、まっすぐ俺たちに突進してくる。
「うおっ、なんだこいつ!」
次の瞬間、先ほどベルが作り出した大きな泡に巨大ウサギが激しく激突――
バァンッ――!
爆音とともに泡は弾け、あたりに水しぶきが舞い散る。巨大ウサギは吹き飛び、その一撃で倒れぴくりとも動かなかった。
ベルは胸を張って勝ち誇った。
「……お、お~っほっほっほ!これこそが、私の魔法の力ですわ!」
ラヴィが感嘆したように「すごい」と呟いた。
こればかりは、俺も納得せざるを得ない。
「使い勝手はともかく、威力は本物だな」
ベルの新魔法はまだ荒削りだが、確かな可能性を感じた狩りとなった。
これからどう進化していくのか、俺たちも楽しみにしている。――いや、不安も大きいけどな。
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