40話 とろけるチーズと魔鍛冶屋の魔法
広場での試し斬りとやらに楽勝で勝利した俺たち(ラヴィ)は、早速昼飯を食べることにした。
さっきまで揉めていた鍛冶屋のオヤジが、まさかの店をオススメしてきた。しかも「炉焼き」なる謎の料理をだ。
こういうの、この町の職人たちにとっては日常茶飯事なのか……血気盛んすぎるて。『あそこの炉焼きは絶品だぞ!オレが保証する!』とか言ってたけど、おいおい、鍛冶屋が言うんだから絶対熱いじゃん。文字通り。
ラヴィと一緒に教えられた場所へ向かうと、そこは……店というより、鍛冶場の延長線みたいな空間だった。
片隅に簡易キッチン、そして中央には鎮座する特製の炉。鉄枠に煉瓦を積み上げた姿は、まるで「武器を焼くか料理を焼くか迷ってる」ような存在感だ。
席は外。木製のテーブルとベンチが並び、客は自由に炉の前をうろついては焼き上がりを待つ。煙の香ばしさと溶けたチーズの匂いが、胃袋をこじ開けてくる。
最初に運ばれてきたのは――薄い生地に黄金色のチーズをたっぷり乗せ、表面をカリカリに焼き上げた薄焼きチーズパン。もう、見たまんまピザだ。
皿の上でチーズが糸を引き、光を反射してキラキラしている。
「ほあ……」
ラヴィがチーズパンをつまみ上げると、チーズがびよーんと延びた。その瞬間、銀の耳がぴくぴくっと動く。……やめろ、かわいすぎる。
「ほら、食ってみなよ。焼きたてだから、ヤケド注意な?」
「んあ……あつっ……。でも、美味しい」
おお、耳も尻尾もぶんぶん動いて、完全に「美味しいモード」だ。見てるとこっちまで嬉しくなる。
続いて出てきたのは鶏の香草炉焼き。パリッと弾けた皮から肉汁がじゅわっと溢れ、ローズマリーとタイムの香りが鼻をくすぐる。ナイフを入れれば、湯気がもくもくと立ち上り、食欲の理性を破壊してくる。
――うわ、これ絶対ビール欲しくなるやつだ。
二人で頬張りながら、俺はふと尋ねた。
「なあ、ラヴィの故郷って、こんな感じの料理あった?」
少し考えてから、ラヴィは短く答える。
「似たのはあった。でも、炉はこんな形じゃない。それに、チーズもない」
そこから、ぽつぽつと故郷の話をしてくれた。
雪深い土地、焚き火の回りで皆が集まり、焼きたてのパンや肉を分け合う夜。母親が作ってくれる濃厚なシチューの匂い――
それから一年に一度、家族全員が集まって三日をかけて大きな宴をするんだと、楽しそうに語ってくれた。正直、こんなに話してくれるのは意外だった。……こんなに楽しそうに喋る子なんだな。
こうして食事を終えた俺たちは、満足した腹を抱えながら鍛冶屋へ戻る。
「おう! 待ってたぞ!」
オヤジは鼻息荒く、作業台の下から何かを取り出した。
――狼をかたどったような耳あて付きの兜だ。流線型のシルエットが美しく、目元を程よく隠す。革ベルトでサイズ調整もでき、着脱も楽そうだ。
「……すごい」
ラヴィが小さく呟く。オヤジは誇らしげに腕を組んだ。
「見ろ、この仕上がり! 動きも邪魔せんし、耳あては特殊仕様だ。音もよく聞こえるはずだ!」
ラヴィが早速着けてみると、銀の耳と一体化し、まるで生まれつきそうだったかのように似合う。
「……これ、すごい。動きやすい、耳も、いい」
くるくる回って着け心地を確かめる様は、新しいおもちゃをもらった子犬そのものだった。
「また、なんかあったら持ってきたらいい!次は転ばねぇと思うけどな!ガハハハ!」
オヤジは大きく笑って、ヒラヒラと手を振った。
礼を言って鍛冶屋を後にし、宿に戻ると――
「まあっ! 見違えたわねラヴィ! とってもカッコよくてきゃわいいわ!」
ベルが入口で待ち構えていた。テンションは相変わらず天井知らずだ。
そして、胸を張ってドヤ顔。
「ワタクシからもご報告がありましてよ?」
……あれ?この顔、なんかろくでもない報告が来そうだぞ。
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