38話 小さな鍛冶屋と大きな出会い
職人街の奥まった路地に、小さな鍛冶屋。
外観はくすんだ木壁に煤の匂い――しかし中へ足を踏み入れると、壁も棚も武器で埋め尽くされている。
剣、斧、槍……どれもよく磨かれ、職人の手が行き届いていた。
……なんか、お土産屋で衝動的に買った剣のキーホルダーを思い出すな。あれ今どこいったっけかな。
俺とラヴィは肩を並べ、一本ずつ武器を眺めながら進んでいく。
そのとき――
「……あ」
ラヴィが小さく息を呑んだ。
視線の先にあったのは一本の小太刀。
刃渡りは六十センチほど。鈍い銀色の刀身に、氷の結晶を閉じ込めたような繊細な模様が浮かび上がっている。光が当たるたび、その刃文は淡く瞬き、まるで冷気を纏っているかのようだった。
……この世界にもジャパニーズカタナってあるんだな。
俺はただぼんやりとそう思った。
だがラヴィは違った。
吸い寄せられるように歩み寄り、両手でそっとその小太刀を持ち上げる。
「お、目ざといねぇ」
炉の奥から現れたのは、短髪オレンジ髪の女性――店主ガーリア。
彼女はちらりとラヴィの手元を見て、肩をすくめた。
「そいつは飾りみたいなもんさ。あんたらみたいな冒険者なら、もっとごつい武器のほうがいいだろ?」
「……これ、斬れないの?」
おいラヴィ、それはストレートすぎるだろ……。
ガーリアは口の端を上げ、挑発的に言う。
「斬れるか斬れないかは……あんた次第じゃないかね」
「……じゃあ、買う」
間髪入れずの返答に、店内の空気が一瞬止まった。
「えぇ!? いや、もっとちゃんとした剣だってあるんだよ?」
「ううん、これ。こんなに、綺麗な剣……見たことない」
頬をわずかに染めながら見つめるラヴィ。
……ああ、これが“運命”ってやつか。俺はそう思った。
ガーリアはふっと笑う。
「ふふっ、そんなこと言ってくれたの、あんたが初めてだよ」
「なんで? こんなに綺麗なのに」
「さあね。飾りだとか、こんな細い武器で何ができるとか……ずっと言われ続けてきたからさ」
……この世界は無骨さこそ正義、って文化だからな。繊細なものはどうにも評価されにくい。
「でも、この武器はそんじょそこらの剣じゃ比べ物にならないほど強いと思いますけどね」
気づけば口が勝手に動いていた。ショート動画で見た、日本刀の切れ味の印象が抜けてないせいだろう。
ガーリアが目を丸くする。
「あんた、分かるのかい?」
しまった、言いすぎた。
「……俺、昔の記憶とかあんまりないんですけど……これがすごい武器だってことは、なんとなく。確か“刀”って呼ばれてたような」
「……カタナ」
ラヴィが呟き、刀を掲げる。光が刃文をなぞり、氷の結晶が再び淡く瞬いた。
「これ、いくらですか?」
「そうだね……十五万ゴルドだよ」
「げぇっ……!」
思わず声が裏返る。ラヴィは静かに刀を棚へ戻そうと――
「アッハッハッハ! 冗談だって!」
ガーリアが豪快に笑い、手を振った。
「そいつはあんたたちに譲るよ」
「えぇ、それは悪いですよ!」
「売れやしない品だし、あんたたちがそれ持って活躍すりゃ宣伝になるだろ? 私もウハウハさ」
俺とラヴィは顔を見合わせ、深々と頭を下げた。
「ありがとうございます!」
「いいんだよ。私はガーリア・クレイバン。この通りの端っこでやってるが、腕は確かさ。今後ともよろしくな!」
「はい、こちらこそ!」
こうして――ラヴィは“運命の刀”を手に入れた。
その刃が刻む物語を、俺も楽しみにしている。
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