34話 ゴキだらけ倉庫、無事生還
俺はさっそく新スキルを発動させる。
「あまた蔓延る有象無象よ、我が力に触れ伏すがいい!くらえ、【磁力痺鎖】!」
俺は力の限り叫んだ!
次の瞬間、全身から黄色いオーラが溢れ出し、倉庫内を満たしていく。
ゴキローチたちの動きが、じょじょに鈍くなり、次第に止まっていくのがわかった。
そして、一匹、また一匹と俺に引き寄せられ始めた。
ふふ、まるで"電磁式ゴキブリホイホイ"だな!中心点が俺なのだけが問題だけど。
だが、俺とゴキローチの間に、ひとつの影があった。
ベルだ。
あいつは一人、入り口の近くにいた。そして、ゴキローチは彼女を取り囲むように群がっていた。
つまり――
引き寄せられたゴキローチたちは、ベルの身体にビタビタビタッ――!
俺に引き寄せられられまいと、ゴキローチはその服に、皮膚に、必死に掴まる。
瞬間、彼女が小さく息を飲む声が聞こえ――
「お゛ぉ゛っ……!」
ベルは聞いたことのない声をあげ、白目をむいてその場に倒れ込んだ。
倒れた彼女もまた、ずりずりと俺に引き寄せられてくる。
「ら、ラヴィ!あまりにもベルが不憫だ!今のうちに全部倒してくれ!」
俺は慌ててラヴィに声をかけた。
「……了解」
彼女は無表情ながらも迅速に剣を抜き、俺の周りに集まったゴキローチを次々と切り捨てていく。
あの惨状を、ものの数秒で片付けたラヴィ。
切り捨てたゴキローチの体液が、俺の服や顔に飛び散り、ひきつりながらも俺はつぶやいた。
「……あ、ありがとう」
するとラヴィは鼻を鳴らし、満足げに言った。
「どう、いたしまして」
倉庫には、静寂が戻った。
俺たちの戦いは一人の尊い犠牲を経て、またひとつの勝利を刻んだのだった。
ゴキローチの群れを片付けて、俺たちは倉庫を後にした。
背中には、気絶したままのベル。
彼女はうわごとのように「ごき、ごきが……」とつぶやいていた。
「ベル、大丈夫か?」
俺は声をかけるが、彼女からの返事はない。ただのお嬢様のようだ。
俺は足早にギルドへと向かった。
* * *
ギルドへついたころ、丁度ベルが目を覚ました。
彼女は取り乱した様子で自分の服をバサバサと手で払い、辺りを見渡して状況を察したようだ。
すると彼女は「……先に、帰りますわね」と小さく呟いてとぼとぼ帰っていった。
まあ、あれほどの経験をしたのだ、一人になりたい時間もあるだろう。南無三。
俺たちは二人でギルドへと戻り、報告を済ませた。
「お、お疲れ様でした。報酬の一万ゴルド、こちらになります」
受付のクールなお姉さんが、ゴキ汁だらけの俺の様子を見て若干引きながらも報酬を手渡してくれた。
俺はその金額を手にし、ちょっとだけホッとした。
ラヴィと共に帰ろうとすると、お姉さんに呼び止められた。
「あ、あの」
「……はい?」
「今回は、ありがとうございました」
そう言って深く頭を下げた。
「あの、クエスト、誰も受けたがらなくて……その、私もアレが本当に怖くて……ありがとうございました」
「……いえいえ、解決できてよかったです」
俺はそう言ってギルドを後にした。
「ラヴィ、今日も助かったよ。おまえの剣技がなければ、俺もアウトだった」
俺がそう言うと、ラヴィも頷く。
「マヒル殿が、引き付けてくれたから。おかげで、倒せた」
それを聞き、俺は背筋を伸ばした宿へと向かった。
窓から夕日が差し込む路地を歩きながら、ベルのことが気になった。
あいつ、大丈夫かな……。
宿の扉を開けると、暖かな光と人の声が迎えてくれた。
「ただいま」
俺は静かに呟いた。
今日も今日とて、早くシャワーを浴びないと。
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