31話 激突!巨大もぐらVS噂の執事
突如、地面が盛り上がり、ズズズッと大地が悲鳴を上げるように揺れた。
土煙が爆ぜるみたいに舞い上がり、その中から――おぞましい影が姿を現した。
それは、信じられないほど巨大なもぐら。
半分ほどしか地面から出ていないのに、俺の身長を軽々と越えていた。
丸太のような前肢。鋼鉄をも砕きそうな爪。
そして――ぶよぶよと蠢く、イソギンチャクじみた口。
「ら、ラヴィ、なんだあいつ!?」
「……分からない。初めて見る」
ラヴィの声には、珍しく迷いが混じっていた。
もぐらの口がもぞもぞと波打つたびに、耳の奥に得体の知れない振動が走り、背筋がぞわぞわする。
「いやあぁぁぁ! 気持ち悪いですわ!!」
ベルが悲鳴を上げ、魔導書を高々と掲げる。
「お~~っほっほっほっほっ!!」
……おい、今の状況で高笑い!?
いや違う、なんだっけ。えーと……たしか【高貴なる咆哮】? いやいや、どう考えても情緒が壊れてるだろ。
ベルの【高貴なる咆哮】が炸裂する。
だが、耳をつんざくような衝撃波を受けても、巨大もぐらは眉ひとつ動かさない。ズサズサと地面を掻き分け、重戦車みたいに迫ってくる。
「な、ワタクシの咆哮が効いてない……!?」
「当たり前だろ! あいつ、明らかに俺たちより"格上"だ! 向こうからしたら、気が狂って笑い出した奴にしか見えねぇよ!」
すかさず俺は【ポイズンパライズ】を発動。紫色のもやがもぐらを覆い、じわじわと動きが鈍っていく。
「ラヴィ! あいつの動きを遅くした! 慎重にいくんだ!」
「……分かった」
その時――
「お~~っほっほっほっほっ!!」
……また高笑いだ!!
ベル、お前マジで大丈夫か!?
「ちょ、おい、気でもふれたか!?」
ベルは、悲痛の叫びをあげる俺を軽くあしらうような、余裕の笑みを見せた。
「ふふん、とくと見るがいいですわ! ワタクシの“もう一つの力”を!」
ベルが高らかに宣言し、グリム・ド・ベルを天に掲げる。
「いきますわよ、“セバス”! 今こそ盟約により顕現せよ――【サモン・セバスチャン】!!」
ま、まさか……本当に来るのか!? 例のあの人が!?
空気がビリビリと震え、ベルの目の前に魔法陣が展開される。
そこから現れたのは――白い手袋に包まれた腕、漆黒のスーツの袖口。
「ほ、本当に来た!! セバスチャンッ!!」
「……!」
ラヴィが、珍しく息を呑んで見つめる。
だが次の瞬間――
ポトリ。
魔法陣から伸びていたセバスチャンの腕が、肘から先でぷつりと切れて落ちた。
「うわあぁぁぁぁ!! セバスチャぁぁぁぁン!!」
オレとベルの絶叫が重なる。……いや、ベルは叫んでない!? なんだあの余裕の表情は!?
「いきなさい、セバス!」
ベルが迷いなくださあ命じると、落ちた腕はバタバタと地面を転げ回る。 下手なホラー映画よりホラーじゃねえか!!
「うわあぁぁぁぁ!! セバスチャぁぁぁぁン!!」
しかし次の瞬間、その腕はミサイルのように宙を滑り――
バゴォォォンッ!!
巨大もぐらの顔面にストレートパンチを叩き込み、そのまま消滅した。
「ありがとう、セバスチャン!」
……お礼を言うな! どう考えてもおかしいだろ!!
顔面を殴られたもぐらはのけ反り、ふらついた隙をラヴィが見逃さない。
軽やかに胴に乗り、銀光と共に舞い上がる。
ズブリ。
剣が頭頂を貫き、巨体はズゥゥンと地に沈み、土煙を撒き散らして崩れ落ちた。
……何が何やら、これにて戦闘終了。
相変わらず鮮やかなラヴィの動きだ。
でも、勝利の余韻に浸る間もない。なぜなら、俺の頭の中はセバスチャンとかいう謎の腕のことでいっぱいだったからだ。
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