30話 お嬢様は今日も愉快
今回の依頼はオオネズミ十体の討伐。オオネズミ自体はただのでかいネズミで、Fランク、いわゆる最弱モンスターだ。
だが数が多いために危険度が上がり、クエストはEランクに分類されている。
俺にとっても、何かと因縁のある相手だ。
アルクーンの街の外壁に沿ってしばらく歩くと、北側の農地周辺にたどり着いた。
「さて、ここらへんで目撃があったらしいが……」
俺は辺りを見渡しながら呟く。
「こりゃひどいな」
そこには規模こそ小さいが、無惨に荒らされた畑が広がっていた。
ベルが眉をひそめ、
「許せませんわね」
と言い、ラヴィもうなずいた。ラヴィの様子を見れば、酒の影響はすっかり抜けているようだ。
畑の土をよく観察すると、突然、そこからボコボコとオオネズミが姿を現した。その数、十体かと思ったら二十近くいる。
「キッキッキッ……!」
彼らは高い鳴き声を上げる。
ベルは静かに黒い魔導書を取り出した。すると本が浮かび上がり、ページがバラバラと勢いよくめくれ始める。
「うおぉぉ、アニメとかのバトルシーンで見たやつだ!」
俺は興奮気味に叫ぶ。
ベルは凛とした声で叫ぶ。
「いくわよ、《グリム・ド・ベル》!」
グリム・ド・ベル……?それってまさか、魔導書の名前か!?ううむ、自分の名を冠する武器とは、やっぱベルっぽいな……
ベルは魔導書を掲げ、高らかと宣言。
「くらいなさいな、ワタクシの必殺魔法!【高貴なる咆哮】!!」
そして突然――
「お~~~っほっほっほっほっ!!!」
謎の大声で高笑いを響かせた。
ただ、その笑いは空気を震わせ、周囲に圧迫感が漂う。
オオネズミたちは震え上がり、その場から一歩も動けずにたじろいでいた。
ベルは俺たちへ振り返り、胸を張って言う。
「どうでした? ワタクシの新たな力、【高貴なる咆哮】は!」
「……すごい、大きい声」
ラヴィが小さく答えた。
「すげえぞ!ベル!すげぇうるせえ!」
俺も思わず声を上げた。別に褒めてはないけど。
すると、ベルは得意げに微笑んだ
「さあ、あの子たちが萎縮している間に倒してしまいなさいな!」
「へ?」
俺は思わず声を漏らす。
もしかして、あの高笑いで萎縮させて終わり? それだけでいいのか?
「こんちくしょーーう!!」
そう叫んで、気合いを入れて、俺はスタンブレイカーを展開。
ラヴィと共にオオネズミの群れへ駆け出した。
* * *
「はあ、はあ……なんとか、全員やったか」
俺は荒い息を吐きながら、辺りを見回す。
ラヴィは平然とした顔で、
「うん。……もう、いない」
と言った。
ベルの高笑い魔法(?)が終わったあと、俺たちが一斉にオオネズミに攻撃を仕掛けると、あいつらも一斉に襲いかかってきた。
萎縮効果なんて、あくまでほんのちょっとだったらしい。
ベルは誇らしげに胸を張って言う。
「素晴らしいですわ!ワタクシの新魔法のおかげですわね!」
俺は呆れたように答えた。
「お前……あれを魔法だとか言い出したら、いろんなところからクレーム来るぞ」
ベルは鼻を鳴らすだけだった。
視線を落とすと、無数のオオネズミの死骸が畑に転がっている。
ラヴィがぽつりと言う。
「これ、回収しないと」
俺はため息をつきながら近付こうとしたが、その瞬間、ラヴィが俺の肩を掴む。
「待って」
彼女は静かに制した。
畑の一角を指差すと、土がボコボコと盛り上がり、まるで何かが地面の下で暴れているかのようだった。
「な、なんだありゃ!」
俺は思わず後ずさる。
ラヴィは冷静に告げた。
「……来る」
「キシシャーーーッ!!!」
次の瞬間、鋭い鉤爪を持つ巨大なもぐらが土煙をあげて姿を現した。
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