27話 古びた本屋と串焼きお嬢
昼前、俺たちはギルドへ戻ってきた。二体目のワイルドホーンをなんとか倒せたのは、俺のなけなしの【パライズ】で動きを止め、ラヴィの一撃とベルの応援が重なったおかげだ。いや、ベルは本当に「頑張れー」と応援してただけだが。
だが、ベルは倒した直後、「マヒルさん、無策過ぎますわよ!?」と何度も頭を叩いてきた。いやまあ、俺も反省してるけどな。
報酬は総額二千八百ゴルド。前回の反省を生かして角を持ち帰ったのが効いたらしい。悪くない金額で、ベルの装備も少しは良いものが買えそうだ。
午後、俺たちは再び商業通りへ。ベルの装備を整えるため、どんな武器があるのかじっくり見て回る。
目ぼしいものはなく歩いていると、ベルが急に足を止めた。
「……このお店、貴族街にあったお店ですわ。こんな庶民の街にも出店してるのですね」
その店の大きなガラスショーウィンドウには、紺と赤を基調とした気品あふれるドレスが飾られている。ベルはガラスにへばりつくように見つめ、値札を見ると目を見開いた。
ご、五万ゴルドだと? 普段の俺たちの報酬の何十倍もの高額だ。日本より物価が安いイメージがあっただけに、少したじろいでしまった。
ため息交じりにベルが言う。
「……さあ、早く探しにいきますわよ……」
元貴族だったなら、こういう服を着ていたんだろうなと、俺は複雑な気持ちでベルの後ろ姿を見つめていた。
しばらく歩き、商業通りの喧騒を抜けた先の路地に、古びた本屋を見つける。看板はかすれ、軒先の風鈴がチリンと鳴る。
「まぁ……素敵な佇まいですわね」
ベルがうっとり声を漏らし、扉を押し開けて入っていく。
中はこじんまりとして天井も低い。棚にぎっしりと本が並び、紙の香りが鼻をくすぐる。古びているが手入れが行き届いている。
――いい雰囲気だが、ここは本屋だ。武器はあるのか?
心の中でツッコミつつ、俺は入り口付近で立ち止まる。
ラヴィとベルは店内を散策。ラヴィの耳と尻尾がぴこぴこ動いて、まるで犬科の探検隊長だ。
「これ……」
ベルが足を止め、黒地に金の刺繍が施された重厚な一冊の本を手にしていた。
「それは?」
俺が聞くと、ベルは表紙を撫でて答える。
「これは“グリモワール”……魔導書ですわ」
「グリ……なんだって?」
俺とラヴィは顔を見合わせる。
ベルは誇らしげに顎を上げる。
「グリモワールは、本に記された特定の魔法の効果や、所持者の魔力を上げる効果があるのですわ」
「へぇ、まさに魔法使いにうってつけじゃねえか。気に入ったなら買ったらどうだ?」
俺が背中を押すと、ベルは眉をひそめた。
「……でも、これ一つで千ゴルドもしますわよ。銀の猪で串焼きが何十本も頼めますわよ」
串焼き換算かよ。
「お前がそれで強くなったら、いくらでも串焼き食べられるようになるだろ? それに――運命かもだし、な?」
俺はラヴィを見る。
ラヴィは小さく頷き、「……そう。ベル殿、導かれた」と呟いた。
ベルは固まったがすぐに目を輝かせ、
「そ、そういうことでしたら仕方ありませんわね! 強くなったワタクシにひれ伏すがいいですわ!」
そう宣言し、店主のもとへ向かう。
だが、会計時は緊張のせいか、銅貨をコロコロと床に落としてしまっていた。
威厳も魔力も、そこに落ちてますよお嬢様。
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