25話 新たな一歩と錆びた棒
昼過ぎ、俺はのそのそと起き出した。昨夜は少し飲み過ぎたせいか、頭が重い……
布団をめくると、部屋の入り口に一通の手紙が落ちているのを見つけた。
「……ん?なんだこれ」
めんどくさそうに手に取り、封を破って中身を確認する。
こ、これは――!
ーーー
『冒険者ランク昇格の通知』
ギルドの決定により、以下の者をEランク冒険者へ昇格いたします。
・マヒル=パライザー
・ベルフィーナ=エーデルワイス
・ラヴィーナ=シルヴァリオ
ーーー
冒険者ランク昇格……だと!?これは思ってもいなかったビッグニュースだ!
急いでベルとラヴィを呼びに向かう。
「ベル!ラヴィ!こっち来てくれ!」
返事を待たず、俺は声をかけて回った。
* * *
「なんですの、いきなり呼びつけて」
「まあ、聞けって!」
二人が部屋に集まると、俺は手紙を見せながら報告した。
「俺たち、Eランクに昇級したってさ!」
ベルが目を丸くし、ラヴィは首をかしげる。
「すごいですわ! これで少しはマシなクエストが増えそうですわね」
「……それ、すごいの?」
「……まあ、小さな一歩だが、大きな前進だ。俺たちは冒険者として、次のステージに立ったってわけだ!」
俺は改めて気を引き締めた。
今のパーティーは三人、ラヴィが圧倒的な主力。
俺も麻痺スキルは強いが、武器や戦術の底上げが必要だろう。
……特にベルの魔法。ありゃ今のところ民間療法レベルだ、強化が急務だ。
「これからは、俺とベルの戦力増強が必須だ。パーティーメンバーの底上げってやつだな」
新たな冒険の始まりを予感しながら、俺は覚悟を決めた。
「よし、今日は装備の新調やスキルの強化について調べに行こうぜ!」
ベルとラヴィが頷くのを見て、胸が高鳴るのを感じた。これから始まる戦いに備え、パーティーの絆と力を高めていく。
麻痺スキルだけじゃない、新たな自分を見つける旅の幕開けだ。
* * *
しばらくして、俺たちはベルの勧めでアルクーン一番の商業通りへやってきた。
ここには食べ物の屋台から、武器や防具の店、よく分からない骨董品市まで、いろんな店が並んでいる。
「うわぁーすげぇな!これぞ異世界!」
剥き身の剣や槍がズラリ。選り取りみどりだが、銃刀法も真っ青だな、こりゃ。
「まずは俺の武器を探そうと思うんだが……何がいいかな?」
「はぁ?自分の武器なのに人に聞いてどうするんですの」
ベルは呆れ顔だ。まあ、ごもっともなんだけど、俺、武器なんて持ったことないし。
よく考えたら、異世界に来てから木の棒を振るくらいしかしてねぇ。原始人も真っ青なムーブだ。
「……剣を使ったことは?」
ラヴィが尋ねる。
「全く。使ったことがあるのは包丁くらいだ。しかも指を切ったからなるべく刃物は避けたい」
「刃物を避けたいって、武器の存在を否定しているようなものですわ」
ベルがピシャリ。まあ、これもごもっともだ。
いかんな……簡単に考えていたけど、戦力増強って意外と難しいのかもしれん。
なかなかゲーム通りにはいかないなぁ……。
* * *
しばらく通りを行ったり来たりして、いつの間にか日が傾きかけてきた。
どこの露天も、荷物を片付け始めている。
あー、もうこれは、一日無駄にしてしまうやつだ。
「すまん、みんな。ちょっと今日は――」
と言いかけたところで、ふと露店が目に入った。一見するとガラクタばかりに見える、雑多とした骨董市だ。
俺はまるで吸い寄せりるように店に近付いていた。
「……この店を見て、最後にするから」
「この店って……この骨董市ですの?正直、何かあるとは思いませんけれど」
「まあまあ、最後だし。ちょっと行って戻るから」
適当にベルをいなすと、ズラリと並んだ商品に目をやる。土器や土偶のようなもの、怪しい模様の入った箱に、妙に細長い壺……
到底、武器が見つかるとは思えないが――
なんとなく、目についた棒を手にする。二十センチ程の長さで、警察が使う警棒のグリップ部分のようなものだ。
「ほう、それを選ぶとは」
しゃがれ声の店主は、フードを目深に被っていて表情は読み取れない。……やばい店だったかもしらん。
「それはのう、かつては"雷鳴を呼ぶ杖"と呼ばれていたそうなのじゃが、見ての通りのガラクタじゃよ」
確かに見た目は錆び付いていて、ガラクタそのものだ。しかし、妙に手に馴染むような感覚がある。棒ばっかり振っていた弊害か?
「もし欲しいのなら、十ゴルドでいいぞ。長いこと売れ残っているものじゃからなぁ」
店主はそう言って、早くも会計の準備をしている。とはいえ、これ……なんだ?少なくとも武器ではないことは確かなんだが……
「じゃあ、これください」
「へへっ、毎度あり」
俺は代金を支払い、二人の元へ戻った。
「あら、何か見つかっ――いや、なんですのその小ちゃい棒切れは!?あなた、武器を探してたんじゃないのですか!?」
「いやぁ、"元・雷鳴の杖"だってさ。うん」
「そんな大層な名前なはずありませんわ!せいぜい"錆筒丸"ですわよ!?」
ベルが次々まくしたてる。いや錆筒丸て。
「いや、見てくれよこのフィット感。正直何に使えるか分からないけど――」
そう言って軽く振った瞬間――
カシュッ。
軽快な音と共に、一メートル程の長さに伸びる錆筒丸。
「「の、伸びたっ!?!?」」
俺とベルは口を揃えて叫び、ラヴィは目を点にしている。
いつの間にか錆びが取れ、煌めく深い紺色の姿を見せる"元・錆筒丸"。何か不思議な魔力のようなものを感じる。
……これは、もしかすると、ものすごい掘り出し物に出会ってしまったかもしれない。
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