24話 騎士道?武士道?いいえラヴィ道
ギルドのカウンター前。
俺とベルは手渡された報酬金額を見て──同時に口角が上がった。
「にまっ……!」
「やったぁぁぁぁ!!」
ふたりでハモったあと、ラヴィがパチパチと拍手した。
どうかしたのかと不思議そうな顔だったが、俺は叫ばずにはいられなかった。
「二万ゴルドだぁあああ!」
──そう、例のマグリダケとやらが想像以上の高値で、
ギルドの兄ちゃんが「これ、よく持ち帰れましたね……」と引き笑いしていたくらいだ。
「よっしゃ!今日はパーっといくぞ!」
「おーっ!ですわ!」
「……おー」
完全にお祭りモード。
財布が重いと足取りも軽くなるもんだな。
* * *
夜──。
俺たちは街の外れにある、安くてうまい酒場、銀の猪へ再び足を運んだ。
結局、名前の由来は不明だが。
酒場に入ると、他の客の視線が熱い。
それは当然、我がパーティーの紅一点、ラヴィさんに向けられているものだった。
ベル?いや、そんなのは知らん。
「今日は飲むぞぉ!」
「飲むですわ!」
「──いや、お前は酒禁止な?」
真顔でストップをかけた瞬間、ベルの顔が「ぶすーっ」と変わる。
こないだみたいにエール一杯で潰れられたらたまったもんじゃない。
「ラヴィは酒飲めるのか?」
「む……飲んだことは、ない」
「じゃあ無理せずジュースにしなさい。大丈夫、今日は奢りだから」
自分で言ってなんだけど、居酒屋の嫌なおじさんみたいだ。
まあ、本当に無理して潰れられても困るしな。
* * *
しばらくして、俺のエールと二人にはブドウジュース、
香ばしい串焼きの盛り合わせに骨つきの塊肉がドンッとテーブルに置かれた。
肉の匂いだけで幸せゲージが振り切れそうだ。
ベルなんか、目がキラキラしている。
「じゃあ、クエスト成功とラヴィの仲間入りを祝って──」
「「かんぱーい!!!」」
「……かん、ぱい」
ぐいっと一口。うまい。肉もうまい。
いや、なんだこの塊肉…口の中でとろけるぞ…。
前回食べられなかった分まで、俺は心の底からうまい飯と酒を堪能した。
* * *
「それにしても、マヒルさんの麻痺狂いが役に立つとはですね」
くーっとブドウジュースを飲み干したベルがふと呟いた。
「ばかやろう、出会った時から活躍しまくりだっただろ?麻痺はすげぇんだよ、麻痺は」
俺は二杯目のエール飲み終え、空のグラスをドンと置いた。
「……マヒル殿の麻痺は、本当に、すごい。 ジャイアントマッシュを、麻痺させるなんて、聞いたことない」
「いや、俺も驚いたよ。 ああいうタイプって普通、麻痺効かねぇからな」
ああいう「状態異常攻撃しますよ」タイプの敵は、当然耐性を持っている。
だからこそ驚いたんだが……まあ、そんなやつでも麻痺らせる俺の麻痺スキルが強すぎたってわけだ。
「でも、それより何より、ラヴィちゃんの一撃こそ至高ですわ!」
ベルが椅子から前のめりに。
「あの無駄のない美しい斬撃、見惚れましたわ……! その後の痺れて倒れる姿も、とってもきゃわたんでしたわ!」
「……不甲斐、ない」
照れ笑いを浮かべつつ、ラヴィはふっと口元を緩める。
「ベルにも、助けられた。 拙者たち、良い、チームだと思う」
──あー、ダメだ。
こういう瞬間、酔いよりも先にニヤニヤがくる。
うんうん。俺たち、いいチームじゃん。
程よく酔いもまわってきたところで、気になっていたラヴィの喋り方について尋ねた。
「それにしても、ラヴィは武士道精神とか、自分のことを“拙者”って言うけど、もともと獣人族にはそういう風習があるのか? それとも、ラヴィの種族だけなのかな?」
俺は訊いてみた。
ラヴィはちょっと考え込むように眉間に皺を寄せてから、「うーん……他の人は、ないと思う」と答えた。
「……拙者の故郷は、山奥の小さな集落。 たまたま寄った冒険者が、拙者の人生を変えた」
俺は興味津々で聞き返す。
「それって、どんな出会いなんだ?」
ラヴィは遠い目をしながら、静かに話し始めた。
「……その冒険者が、置いていった荷物の中に……ある本があった。 その本は、とある武士の人生が、絵と文字で綴られていた。……その出会いが、拙者を変えたのだ」
ベルがニコニコしながら口を挟んだ。
「どこかの偉い武士様の自伝かしらね。 なんにせよ、素晴らしい出会いがあったのですね」
ラヴィも微笑んだ。
そして、「……うん。『頑張れ、武士道君!』は、拙者の心に、いつもある」と嬉しそうに言った。
俺はそのタイトルに耳を疑った。
なんという……打ち切り感満載のマンガみたいなタイトルだな、とも思った。
ベルと目が合い、互いに苦笑いした。
ベルが小声で、「今のって……ワタクシの記憶違いでなければ、そういう庶民向け漫画があった気が……」と言ったが、俺は無言で首を横に振った。
もう、いいじゃないか。そういう野暮なことは……
俺は自分自身を無理やり納得させるように、追加で頼んだエールをグビリと飲んだ。
頑張れ、俺。
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