22話 ご利用は計画的に
「ぶぉっぶぉっぶぉっぶぉっ!」
……え?何今の。
コイツの声……?いや、鳴き声っていうより、炊飯器が暴走したみたいな音なんだけど!?
「いやぁぁ! 気持ち悪いですわぁぁぁっ!!」
ベルが悲鳴を上げる。その視線の先――
二メートルを軽く超える、足つきの巨大キノコ。
……いやいや、キノコって立つの?歩くの?まったく、やめてくれよ。
ラヴィが言うにはこいつの名前は《ジャイアントマッシュ》。まんまかよ。
歩くたびに「ずしん、ずしん」と地面が揺れる。キノコのくせに、俺たちを踏み潰す気か?
俺が心の中で悪態をついていると、でかキノコはおもむろに腕を振りかぶり――
「げぇっ……!」
咄嗟に横っ飛び!
――メシャアッ!!
さっきまで俺がいた場所近くの木に、猛烈キノコパンチが炸裂――!豪快になぎ倒された。
「まじかよ……シャレにならねぇぞ……」
俺の前にラヴィがスッと立つ。
「……こいつは、強い。 拙者が、時間を稼ぐから、逃げて」
そう言うなり、迷いなく駆け出した。
逃げろ?……ハハッ、馬鹿を言うな。置いてけるかよ……!
ラヴィはでかキノコの鈍重な一撃を紙一重で避け、合間を縫って足や腕に鋭い斬撃。
さすがだ……と感心したのも束の間――
――ぷしゅううぅぅっ!
傘の隙間から黄色い粉が噴き出し、辺り一帯に蔓延した。
「ぐっ……!」
ラヴィが倒れる。
「んむむむむむむむ――!」
ベルも謎の呻き声を上げてバタリ。
「やばっ……げほっげほっ……!」
俺も吸い込みすぎ――視界が霞む。麻痺はしないものの、大量の粉が気管を襲う。
『ピコンッ』
その時、俺の目の前にメッセージが浮かんだ。
『スキル【リミット・パライズ】を獲得』
【スキル:リミット・パライズ Lv1】
効果:脳と体のリミッターを麻痺させ、5秒の間、限界以上の力を引き出す(高負荷により――)
消費MP 50
「これは――新スキル……! なんだか分からないけど、これに賭けるしか!!」
俺はむせながらも、深く息を吸い込み――叫んだ。
「いくぞ、【リミット・パライズ】!!」
――バチバチバチッ!!
体内を電流が駆け抜ける感覚。心臓が爆発しそうな程高まる鼓動。
「うおぉ……これは……!」
髪がゾワゾワと脈動し、全身からはバチッ、バチッ、と稲妻を帯びる。
地面を蹴った瞬間、景色が後ろに流れた。
速ぇ!俺、速すぎる!!
「うわあぁぁぁっ――!!」
予想外のスピード。その勢いのまま、ジャイアントマッシュに衝突!
――ドゴォォォォン!!
巨大キノコは粉をまき散らしながら空を舞い、森の奥へ吹っ飛んだ。
「っしゃああああ!!」
直後、バキバキッと体に違和感。
「あ? あででででで!!」
これは、まるで……筋肉痛!?なんで今!?慌てて説明欄を見返すと――
『 高負荷により使用は非推奨』とご丁寧に書いてあった。
「んだこれぇ!?」
ベルに「説明ちゃんと読め」って言ったばっかじゃねぇか……いや、これは非常事態だったし!うん、あのアホとは違う!
必死に自分を納得させていると、森の奥から――ずしん、ずしん。
「……まさか」
土煙をかき分け、ボロボロのジャイアントマッシュが再び姿を現した。
「ぶ、ぶぉっ……!」
やつは不気味な音をたてて、一歩、また一歩とにじり寄ってくる。
「やべっ、あいだだだ……!」
足に力が入らない。立てねぇ。
もぞもぞと体をねじる俺の前に、剣を杖にして、ふらつきながらラヴィが立ち上がる。
「マヒル殿……あとは拙者に!」
「ラヴィ……!」
しかしラヴィが踏み込んだ瞬間、ガクッと崩れ落ちる。まださっきの痺れが残っているんだ!
ついに《ジャイアントマッシュ》は目の前に。やつは大きく腕を振りかぶる。
一か八か、"これ"しか無ぇっ!!
俺は痛む右腕を無理やり上げて叫んだ。
「【パライズ】!!」
俺の右手から稲妻エフェクトが炸裂し、至近距離で命中――!
途端、でかキノコが硬直。
「ぶぉぶぉぶぉ……!」
粉を吹きながら小刻みに震える。
ラヴィはその姿を見て一瞬戸惑い――そして、最後の力で飛びかかり一閃。
ブシィッ――!!
縦に半分裂けたジャイアントマッシュは、大きな音を立てて倒れた。
……ついでにラヴィも、みっともない格好で倒れた。
「……勝ったぁ」
俺は力なく呟いた。
ベルとラヴィは、いまだに二人して痺れ込んでいる。
うわぁ、麻痺怖ぇ……
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