18話 汗と獣とデリカシー
銀色の髪が、風にさらさらとなびいた。それに気付いた彼女は、バッと顔を隠した。
全身フルプレートの中身がまさかの美少女だった、さらに"ケモミミ"という衝撃の真実が明かされて数秒後──。
「ぴゃああああああぁぁあっ!!」
平原にベルの奇妙な絶叫がこだました。
「かっ、きゃ、きゃわいいですわぁ~~~~っ!!!」
彼女は手を握りしめ、ぷるぷる震えながら飛び跳ねていた。いや、マジで浮いてる。なに? 嬉しすぎて浮力でも生まれたの?
俺が初めて生のケモミミに会えた興奮を、遥か斜め上に上回るベルのテンションによって急速に冷静なってしまった。
「落ち着けベル。お前、うるさい」
「だってですわよ!? だってですわよおお!? あんな……! 鎧を脱いだらこんな……!! ギャップ……! 脱いだら……!!」
過去最高のテンションを記録するベル。鼻をフガフガ言わせそうな勢いだ。俺はそんなやつそっと無視して、目の前の女騎士に改めて向き合った。
「えっと……はじめまして。俺はマヒル=パライザー。こっちのアホはベルフィーナ=エーデルワイス」
「はひっ!? いま、アホって言われましたわ!? 訂正してくださいましっ!」
「無視するからな」
小さく肩をすくめる俺に、女騎士──まだ少しだけ顔を伏せたままの彼女が口を開いた。
「……ラヴィーナ=シルヴァリオ。冒険者、なるため……はるばる、この街、来た」
おっと、言葉がちょっとたどたどしい。イントネーションも独特で、少し堅い。それでも、まっすぐで、凛とした声だ。
「なるほど、ラヴィさんね。……にしても、そんなやつが、なんでフルプレートに捕まってたんだ?」
そう聞いた瞬間、彼女はびくっと身をすくめた。
「…………恥ずか、しくて……」
ぼそっ、と聞こえるか聞こえないかの声で、そう呟く。
「えっ?」
「……獣人、珍しい。この街の人、好奇の目、向ける。何度も声、かけられた。……獣人、この街、だめ」
その言葉に、思わず言葉を詰まらせた。
獣人差別――これは今までゲームやラノベで存在は知っていたし、差別というのは俺たち人間が繰り返してきた負の文化だ。
そっか……この世界でも、そういうの、あるんだな。種族ってだけで見られるの、あんまりいい気はしない。
けど──
「えーと、ラヴィさん? それはきっと、あなたがキレイだからみんな見てたんじゃないか?」
「……え?」
彼女の大きな耳がぴくりと動いた。
「俺からしても、獣人は珍しいと思うけどさ。それよりも、単純にキレイな人がいるなーって、誰でも見ると思うよ。なあ、ベル?」
「はひっ!? ……もちろんですわ! こんなに! こんなにきゃわたんなのですからっ! 誰だって見ますわ! 見まくりますわ! 見てこそ人間ですわ!!」
急な熱弁に、俺は思わず顔をしかめた。
(……うわー。こいつの新たな一面を知ってしまった。嬉しくねー)
そんな俺の気持ちをよそに、ラヴィは戸惑ったように視線をさまよわせ、ぽつりと口を開く。
「……みんな、拙者のこと……キライじゃない?」
……拙者?
頭に巨大なはてなが浮かんだが、ぐっと堪えて俺は笑った。
「そんなこと、ないと思うぞ。なあ?」
「間違いありませんわっ!」
「……それなら……嬉しい」
ラヴィはようやく、顔を隠していた手をそっと下ろした。
銀の髪と、澄んだ灰色の瞳が、陽射しに照らされてやわらかく輝いていた。
うわ、マジで……キレイだな、この人。
――でも、これだけは、言わなくてはいけない。何よりラヴィさんの為に。
「……ラヴィさん、とりあえず……お風呂入ろうか」
その瞬間、彼女の顔はぽんっ! と真っ赤になり、再び手で覆われた。
「う……うぅぅ……!」
俺たちは手早く素材を回収すると、帰路についた。もちろん、ベルからは「最低」だの「ノンデリカシー」などと散々言われ続けた。
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