17話 ガチガチとふわふわ
さあ、鎧を脱がすのはいいが……これ、どうやってやるんな?どこもかしこもガッチガチじゃねえか。
「おい、街まで戻ってからじゃダメなのか? 人手もあるしさ」
俺がそう言うと、銀の鎧の中からぼそりと返事が返ってきた。
「……街は、嫌い」
えー。なに、ちょっとこの人お尋ね者とかじゃないよな?もしかして連続誘拐犯とか、はたまた魔王の手下とか――
……まあ、いざとなったら麻痺らせればいいか。
「仕方ないな。じゃあ、この場で脱がすぞ? ベル、ちょっとあっち見てろ。撮影は禁止だ」
「そ、そのような趣味はありませんわ! カメラもありませんですし!」
……ん? その言い方だと、カメラがあればやるってことか? ちょっと怪しいけど、いまは置いとこう。
「どこ外せばいいんだ? このガチガチの鎧」
「留め具が……背中に二ヶ所。 肩甲骨のあたりと腰のあたり。 それから、首の後ろに一ヶ所」
「……いや、待て。どうやって着たんだよそれ」
ひとりじゃ無理だろ絶対。謎の着用方法に突っ込みつつも、俺は騎士の背に手を伸ばした。
ガチャリ。ひとつ目の留め具を外す。
ガチャッ。二つ目も。
よし、次は首の後ろだな……と思って手を伸ばした瞬間――ヘルムの隙間から、銀色の、やわらかそうな髪の毛がチラッと見えた。
「へぇー、あんた銀髪なのか」
その瞬間、鎧の中の人がビクリと震えた。
「…………まあ、な」
……その間はなんだよ。なんで一拍置いた?
なんか怪しい……けど、まあ今は脱がすのが先だ。気にせず首の留め具を外す。カチッと音がして、鎧の上半身部分が少し浮いた。
と、その瞬間――ふわっと香ってきたのは。
「……ん?」
なんだろうこれ。鉄と……汗と……獣っぽい匂い?
いや、獣っていうか動物園の裏側みたいな、なんかそういう……
(まさか……本当に風呂、入ってなかったのか……?)
汗がすごいぞこれ。歩くサウナだぞ。中、絶対暑いだろこれ。
「できたぞー。あとは――」
言いかけたところで、騎士はさっと俺から距離を取った。
「助かった……後は、自分でできる」
「いや無理だろ、そのタイプの鎧。一人じゃ脱げねぇって」
俺がそう声をかけた瞬間、騎士は手を上げて「大丈夫だ」とでも言いたげに振り返り――
そのまま、コテンッと。
「うわ、転んだ!」
「転びましたわ!」
分かってるって。
「いやいやいや、何やってんだよお前!?」
慌てて駆け寄る。騎士は背中から倒れていて、起き上がれずにジタバタしていた。
「ほら、手貸せって」
俺は手を伸ばして、騎士の腕を引き寄せる。
その瞬間――ガコッ、と音を立てて、頭部のヘルムが地面に落ちた。
「え?」
思わず、言葉を失う。
そこにいたのは――
月光みたいに艶やかな銀髪、白磁みたいな肌、長いまつげに、ぱっちりと開いた大きな目。ふわりとした口元――
そして。
頭の上に、ぴこっと。
三角の、大きな銀色の耳。
「……………………」
「…………え? お、お前……女……? しかも……」
まさかの。
「け、け、けもけもけも、ケモミミ!?!?」
女は、純白の肌をほんのり赤く染めて、両手で顔を隠した。
いやおや、これはまた面白くなりそうだ……!
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