159話 生誕、トカゲの子
謎の巣を後にした俺たちは、待たせておいた馬を連れてラヴィの元へと戻った。
着いた頃には、馬車いっぱいに魔結晶や鱗、爪に毒腺など、バジリスク系の素材が所狭しと積み込まれていた。
さすがラヴィ、素早く丁寧な解体作業だが……俺たちの乗る場所はいったいどこですか……?
俺たちに気が付くと、無表情のままパタパタと手を振った。
「む……お帰り。 こっちは、終わったよ」
「おう、お待たせラヴィ! にしても、すごいな。相変わらずの手際だぜ」
「えへへ……それほどでも」
「……てか、怪我は大丈夫なのか? こんなに動いちゃって」
「うん。ベル殿の魔法のおかげ、治ってきた」
あっけらかんと言うラヴィだが、ベル唯一の回復魔法である【ヤヤヒール】にはそんな効果は、ない!
せいぜい、病院で点滴を打つ程度の効果しかないと思うんだが……っていうことはつまり、ラヴィの体が単純にすごいってだけなのか……?
もんもんと考える俺をよそに、当の本人はいたって元気そうだ。
ラヴィはいかにも興味津々といった感じで、俺が重そうに抱えている黒い塊と、上半身が隠れる程の脱け殻を持ったベルに交互に目を向ける。
「……ところで、二人とも、何持ってる?」
「フフッ、さすがはラヴィさん、お目が高いですわ……! ここにありますは、《ロイヤル・バジリスク・ロード》の脱け殻ですわぁっ!」
ベルは、両手に抱えきれない程の脱け殻を意気揚々とラヴィに見せつける。
顔は隠れてるけど、多分ドヤってるんだろうなぁ……
対するラヴィは、一瞬目を細めたあと「……バッチい」と小さく呟いた。
「えぇっ!? ち、違うんですのラヴィさん! これは、持ってるだけでお金がザクザク入ってくるという、伝説の品物なんですわ!!」
「いや、そこまでは言ってねえよ。 ただのお守りだお守り」
「えぇっ!? こ、こんなにたくさん集めたのに……」
ベルのツインテールがしょぼんと垂れ、持っていた脱け殻をトサトサと落とした。
……いや、最初から俺はお守りだっつってたのに。
「まあ、そんなことよりラヴィ、これ見てくれよ!ほれ! すんごいぞ!」
俺は大事に抱えていた黒い卵を見せた。
瞬間、ラヴィの目はキラキラと輝く。
「そ、それは……もしかして、卵?」
「多分な! 巣の中で見つけたんだぜ、俺が」
「すごい……大きい……よく、見つけたね」
「うんうん、分かってくれるかラヴィよ」
うっとりしながら卵を見つめるラヴィ。
俺はベルに「ほらな?」と顔で示すと、彼女はベーッと舌を出してきた。子どもか。
「……それで、どうするの?」
「へ?」
「どうやって食べるの?」
俺は無言で卵を抱え込み、数歩後ずさる。
よく見るとラヴィは、よだれを垂らしているじゃあねえですか。
「おまっ……まさか、食べる気かよ、これを」
「……? 違うの?」
心底残念そうな顔をするラヴィ。
だめだ、こいつにまともな感性を期待した俺がバカだった。
「おーっほっほっほ! た、確かに、モンスターの卵は物によっては珍味とされますからねぇ! おーっほっほっほ!」
「ぐぬぬ……」
勝ち誇ったようなベルの高笑いが、辺りに響く。
ちくしょう、俺が万全なら麻痺の餌食にしてやるってのに……!
「……じゃあ、それどうするの?」
「え? どうするってラヴィ、そりゃあ……どうしようか……?」
「食べる?」
「それはちょっと待って! 大分待って!」
ラヴィに聞かれるまであんまり考えてなかったけど、本当にこれ、どうしようか……?
鑑定に出したら価値はつくのか?
っていうか、そもそも本当に卵かどうかも分からんしな……
「……ひとまず、保留で! 街に帰ってからこれのことは考えよう!」
「……本当、行き当たりばったりですわね……」
「マヒル殿らしい」
俺は華麗なリーダーシップを発揮して、まずは街に帰ることを提案。すぐさま帰り支度をすることになった。
馬車の荷台にあった大量の素材の置き場に困ったが、ポッピンに貰った神アイテム、アイテム袋Mのおかげで全て解決。
あれだけあった素材は、まるで魔法みたいにすいすいと袋の中に消えていった。
ただ、例の卵(仮)だけは俺が大事に持っておくことにした。ラヴィの視線が気になったけど、抱えるのに丁度良いサイズ感で妙に落ち着くんだ、これが。
「さあて、準備はよろしいかしら? 無事に帰るまでがクエスト……なるべく事故を起こさないようにかっ飛ばしますわよぉっ!!」
ベルの不穏な宣言と共に馬車が動き出し、戦い続きのこの場所ともようやくお別れの時間。
早くこの、泥だらけの服をどうにかしてえなぁ……
* * *
山頂を出発してから数時間が経った。
日が傾き始め、心地よい馬車の揺れにまどろんでいると、ガタガタッ!という振動で目が覚めた。
「んおっ……!?」
「どうかしたんですの?」
ベルは御者席で華麗に手綱を捌きながら、俺をチラッと見る。
「ん……いや、ちょっと揺れてビックリしただけだよ」
「もう、夢でも見てたんじゃないですの? ずっと平坦な道ですわよ?」
「え、あれぇ……?」
確かにベルの言うとおり、馬車はいつの間にか山を下り見慣れた街道を進んでいた。
「……悪ぃ、ちょっと寝ちゃってたみたいだ」
「そんなの、全然いいですわよ。 荷台にいてもやることはないでしょうから、休んでてくださいまし? マヒルさんが一番ダメージを負っているんですし」
「ベル……本当助かるわ」
ベルは返事の代わりにフフンと鼻を鳴らした。
ベルだって魔力をかなり消費してるはずなのに、全く頼もしいやつだよ。
「じゃあ、お言葉に甘えて――うおっ!?」
不意に、ガタガタと揺れる。
い、今のは確実に夢じゃない……よな?
「ん……マヒル殿、どうしたの?」
「おお、悪ぃ、起こしちまったか。 いや、何か揺れた気がしたんだけど……多分俺の気のせい、かな……?」
ラヴィは眠たそうに目をこする。
「……! マヒル殿、それ」
「へ?」
ラヴィに指を指されて、ようやく気付いた。
俺が大事に大事に抱えていた卵に、いつの間にかヒビが入っているではないか……!
「ヒビ!? や、やべぇっ、どっかにぶつけちまったか!? これ――」
慌てて卵を持ち上げた瞬間、不意にガタガタと動き出した。揺れの正体は、これか……!
「えっ!? 待って待って、動いてる、これ動いてるヨォ!?」
「落ち着いて、マヒル殿」
「な、何っ!? 後ろで何が起きているんですのぉ!?」
「落ち着いて、ベル殿」
急遽路肩に馬車を止め、三人で卵を見守る。
ガタガタ、ピキピキ音をたてる卵。見る見るうちに、ヒビが広がっていく。
「こ、これ、本当に卵だったんだな!! え、どうしよう、つまり、俺は何、お父さんになるってこと!?」
「マヒル殿、何言ってるの?」
狼狽える俺に冷静なツッコミを入れるラヴィ。
でも、これが落ち着いていられるか!?まさか、本当に卵で、こんなにすぐ産まれるとも思わんじゃん!?
そうこうしているうちに、卵の殻がググっと浮き始めた。それはまさしく、この世界に新たな命が産まれる瞬間――俺たちはただ、固唾を飲んでそれの時を待った。
ピキピキ、パキパキ――卵は激しく揺れる。
そして遂に――
パキョッという軽い音とともに、手の平サイズのトカゲが姿を表した!
薄茶色の柔らかい肌はうっすらと膜に覆われ、つぶらな瞳で俺を見つめる。
「う、産まれたぁ……!!」
「キューイ!」
黒トカゲは元気な産声を上げる。
目と目で通じあう、俺たち――
瞬間、俺は完全に母性に目覚めた。
「よろしく坊や、私がママよ」
「マヒル殿、ずっと何言ってるの?」
マヒル、今日この時からお父さん――いや、お母さんになります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
感想、ブクマ等お気軽にいただけると励みになります。
次回もよろしくお願いしますm(_ _)m




