15話 参戦、フルプレートの"あいつ"
翌朝──。
アルクーンの空は雲一つなく、眩しいほどの快晴だった。街を歩く人々もどこか軽やかで、朝の活気に包まれている。
そんな中、俺とベルフィーナは昨日に引き続き、ギルドへと向かっていた。
……ただし、彼女の顔は朝の陽気とは真逆そのものだった。
「……う゛ぅ……まぶし……気持ち悪い……なんで私……おう゛っ」
その顔色は、白を通り越して若干グリーンがかっている。髪もボサボサで、目の下には見事なクマができていた。
「おーいベル、お前……二日酔いって知ってるか?」
「ふ、ふつか……?」
「昨日めっちゃ飲んでたじゃん。串焼き片手に、"あーら庶民の味!クセになってしまいそうですわ〜♡"とか言って踊ってたぞ?」
「う、うそ……っ!」
もちろん、嘘だ。ベルは口元を押さえてうずくまり、目の焦点も合っていないようだ。見ていて可哀想なほどのグロッキー状態だった。
まぁ、身から出たサビというやつだ。
「……もう……帰りたい……」
「だがしかし、金がない!」
俺は人差し指を天に突き出す。無慈悲な現実を突きつけるのも、リーダー(仮)の役目だ。
「武器もないし、とりあえず今日もスライム狩りだな」
「うぅ……また……ぬめぬめが……」
かくして、俺たちは再びスライム討伐へと向かった。
* * *
街道から少し外れた林の中で、昨日とは別の棒を発見。節が少なく、いい感じに細長い。
俺はそれを手に取り、構えた。
「お前こそ、相棒Ⅱだ……!」
「……はぁ……ただの木、ですわね」
ベルが心底呆れた目で見てくる。二日酔いでグロッキーなくせに、そういうツッコミだけは怠らない。
「よし、武器も手にしたことだし、いざスライム討伐じゃ……!」
俺は相棒Ⅱを天高く掲げた。
* * *
「【パライズ】!」
俺の指先からほとばしるしょぼい光が、ぷるぷると跳ねるスライムに命中――ぶるぶるぶると小刻みに揺れるスライム。俺はその隙に、相棒Ⅱで"どちゃ"っとやる。
「それで五体目、ですわね」
「んー。相変わらず、楽勝すぎてテンション上がんねーな」
スライムの粘液がこびりついた棒を草にぐりぐりとこすりつけ、俺たちはふたりで周囲を歩く。風になびく草原の音が耳に気持ち良い。
「そういや、街から少し離れるだけでこんなに静かなんだな……」
「……あの……これ以上、歩けないん、ですけど……」
「まぁまぁ、ちょっと探索だって。運動すればアルコールも抜けるって」
「それ、絶対嘘ですわ……!」
ふらふらとついてくるベルを横目に、俺が歩みを進めようとしたその時だった。
「ンベエェェェェェェェ!!」
あたりに響き渡る、絶叫のような鳴き声。
「は……?」
思わずフリーズする俺とベル。
「今の、なんですの……?」
「いや、知らんて」
バサッ、と草を掻き分けて現れた影を見た瞬間──
「デカッ!!??」
現れたのは、牛よりデカい……というか、牛二頭分はありそうな巨大な羊だった。薄汚れた毛を全身にまとい、怒り狂ったように目を剥いている。
「ひぃ、羊ですの!?」
「な、なんで羊がこんなところにぃぃ!?」
羊が頭を振り、助走をつける。
「く、くるぞッ!【パライズ】!!」
スキルを放つ。光が羊へと向かい──
「ェェェェェェェ……」
巨体がぶるぶると震えたまま、ピタリと静止した。
「ナイスですわ!逃げますわよ!全力で!」
「お、おう!」
俺たちはすかさず方向転換し、来た道を戻るように走り出した。
が。
「ンベエェェェェ!!」
「えっ、もう動けるんですのッ!?」
「まだ麻痺してろよおおお!!」
もう一度、助走をつけて突っ込んでくる羊。完全に殺りにきてやがる。
このままでは──ぶつかる!
と思った瞬間――
ドシャッ!!
大きな鈍い音がして、羊の進路が逸れた。あまりの衝撃で、羊は横に転がっていく。
「え?」
俺たちが振り返ると、そこには──
銀に輝くフルプレートアーマー。陽の光を帯びて鈍く光っている。
──昨日の酒場で見かけた、あのフルプレートの騎士だ。俺たちの危機に颯爽と現れたその姿はまさに救世主、白馬の王子様、だ。
左腰に剣を携え、両腕には頑強そうなガントレット。……さっきの衝撃音、どうやらあの羊をぶん殴ったらしい。
……なんか、随分脳筋な世主だな。
「…………」
無言でこちらを見る騎士。
ベルがポツリとつぶやいた。
「……いま、助けてくれた……?」
「え、あ、うん……たぶん?」
仮面の奥から、ぼそりとした声が漏れた。
「……弱者、救済……武士道のままに」
渋い声に、マジな雰囲気。
だが次の瞬間──
「ンベエェェェ!!」
転がっていた羊が再び起き上がる。
それを見て、仮面の下からほんのり焦ったような声が漏れた。
「……!むぅ……!」
騎士は剣を抜き取ると、巨大羊へ対峙した。
その勇ましい姿に、俺は思わず生唾を飲む。今から目の前では、きっと激しい戦いが繰り広げられるんだ――
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