158話 快晴の空の下
「……なんじゃあいつは……」
しばらく何もない空を見つめ続け、ようやく出た言葉だった。
上空には、俺たちの呆れる位の快晴が広がっている。
「今のは……恐らく、《アルバトゥス》ですわ。 伝説の白竜――そう、呼ばれているものですわね」
「……うん、間違いない。 拙者の村にも伝わる、"白き者"」
「白竜……《アルバトゥス》……見るからにヤバいやつだったな」
今思い返しても、身震いしちまう位の圧倒的存在感――
え、冒険者ってあんなのとも戦わないといけないの?
裏ボス級だろ、あんなの。
「えぇ、本当ですわ……きっと、竜明季に引き寄せられてきたんですわね。 あんな伝説のドラゴンが現れるとは、思いもしませんでしたが……」
「そうだな。 世界はまだまだ広いってことか……」
白竜が飛び去った空の向こうを眺め、しみじみと思う。
――いつかは試してみてぇな……俺の麻痺が通用するかどうか……!
「……マヒル殿、何で笑ってる?」
「放っときなさい、ラヴィさん。 どうせ麻痺のことしか考えてませんわよ」
ベルは髪の毛を手で遊ばせ、呆れたように言った。
「おおい、失礼だなお前は! まあ、あながち間違ってないけども……」
「ほらやっぱりですわ! ね、ね、ワタクシの言う通りでしたでしょう?」
「う……? う、うん」
「いや、何でそんなに嬉しそうなんだよ、お前は……ラヴィが困ってるじゃねえか。 とにかく、まずは帰ろう! マジで疲れたわ!」
俺の心からの提案を聞き、無言で頷く二人。
ベルの魔力はすっからかん、ラヴィは疲労困憊だ。
満身創痍の俺たちだけど、勝利の凱旋といきますか――!
それから俺たちは、街へと戻る準備を始めた。
ラヴィは腹の怪我もあるので、できる範囲で素材の回収、俺とベルは、さっきの戦いで逃げ出しちまった馬を探し回った。一時間も。
《バジリスク》の大群が余程怖かったのか、馬は茂みの中でブルブルと震えていた。
「どぉー、どぉー……よしよし、怖かったですわね……ワタクシが来たから、もう大丈夫ですよ?」
ベルの優しい声につられて、馬は茂みを超え自分からすり寄ってきた。
動物の扱いうますぎじゃね?馬だけに――
「……? マヒルさん、一人で何をニヤニヤしてるんですの?」
「ん、ちょっと面白いこと思い出しちまってな」
「へえ、そうでしたの。 気持ち悪いですわね」
「おまっ、急に刺す程辛辣じゃねえか……! ほら、無事に馬が見つかったことだし、早く戻ろ――ん?」
馬車まで戻ろうとした時、茂みの中に何かがチラリ。
押しつぶされた草木が道のように続いており、奥まった所はちょっとした広場のようになっている。
「なんだあれ……?」
「獣道、ですかしらね?」
「なあ、ちょっとだけ見てみようぜ?」
「えぇ!? 何でですの!?」
「俺の勘が囁くんだよ。 ”こういう所にお宝があるぞ”ってな……!」
「お、お宝……まあ、ちょっとだけでしたら」
ひとまず馬は待機させ、"お宝"というワードに難なく懐柔されたベルと共に獣道らしきところを進む。
奥に進むにつれ生臭い香りが強まっていく。
辺りには、チラホラと動物の骨らしきものや、何かの抜け殻のようなものが散見された。
「これって……脱皮した跡か……? てことは、もしかしてここは――」
「《バジリスク》たちの棲み処、だったんですわね……ほら、一際大きいあれ……《ロイヤル・バジリスク・ロード》の脱皮した皮じゃありませんの?」
「おわぁ、すっげぇ!」
巣の最奥に鎮座するものは、見紛うこと無くボスの抜け殻だ。木々の隙間から差し込む陽の光を白く反射して、どこか神秘的な存在感を放っている。
こりゃあれだ、絶対に良い記念になるぞ……!
俺はガサガサと巣の奥に踏み入り、比較的奇麗な抜け殻を探すと丁寧に手で割いて集め始めた。
「ちょおっ!? 何をしてるんですの、マヒルさん! バッチいですわよ!!」
「……なーに言ってんだよ、ベル。 こういう抜け殻はなぁ、財布に入れておけば金運アップのお守りになるんだぜ!?」
「――そ、それを先に言ってくださいまし!」
ベルは俺の話を聞いた途端、血相を変えてガサガサと駆け寄ってきた。
手当たり次第にムッシムッシと抜け殻を集めるベルを見て、俺はなんとも複雑な気持ちになった。
――うん、単なる噂話だなんて、口が裂けても言えんくなっちまったなぁ……
「お、おい、ベル……? そろそろいいんじゃないか? ほれ、拾うたびにこぼれてるって」
「えぇ!? マヒルさん、何をしているんですの!早くここに乗せてくださいまし!」
「おまっ、がめつぅ……既に持ちきれなくなって――って、んん?」
「どうしたんですの? 奇麗な抜け殻ありましたか?」
「違っげぇよ!いつまで皮集める気だよ! ほれ、あれ……!」
そこには抜け殻や木の枝なんかで丁寧に覆われた、ポツンと佇む物があった。
丸っとした楕円形の黒い塊――丁度その部分だけが光に照らされ、まるで”見つけてくれと”言わんばかりに存在を主張している。
「あれって……もしかして、卵?」
「……かも、しれないですわね。 あ、ちょっと!」
俺はまるで吸い寄せられるようにそれに近付き、丁寧に拾い上げた。
両手で抱えきれる位の大きさで、見た目以上にズッシリと思い。
表面はザラザラしていて、近くで見ると黒色に混じって金粉を散りばめたような豪華なビジュアルだ。
「なあ、見ろよベル! これぞまさにお宝だ!! 何かは分からんが、絶対レアなやつだぞ、これ!」
「……そうなんですの? ただの《バジリスク》の卵っていうだけじゃありませんの……?」
「おまっ、な~にを言ってんだ!? こういう、卵を運搬するだけのクエストってのもあるくらい、モンスターの卵ってのは人気なんだぞ!?」
「はぁ……何をそんなにはしゃいでるんですの? ほら、早く戻りますわよ」
「てめっ、さっきまで必死に抜け殻集めまくってたくせに……!」
ベルは両手に山盛りいっぱいの抜け殻を抱え、ワサワサと乾いた音を立てながら戻っていく。
あれぇ?はしゃいでるの俺だけぇ?
でかい卵ってだけで充分すげぇと思うんだけどな……
「わ、分かった、行くから待ってくれ! これ、地味に重いんだって!」
俺はズッシリと重いそれを抱えて、ベルの後に続いた。ドタドタと、重い体をひいこら動かす。
その時、ブルッと微かな振動――
「うん……? 気のせいか――」
お宝ゲットと浮かれていた俺だが、実はこの時、すでに小さな命の脈動は始まっていたんだ。
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