157話 対決、トカゲの王!③
視界が霞む、体も痛ぇ。
だけど俺は、ここで倒れる訳にはいかない――俺の後ろに控えるこいつらの為にも……!
「……おぉい、トカゲ野郎! 熱烈な視線、受け取ったぜ? きっちりお返ししてやるから……よぉく見とけよ、このやろう……!」
膝はガクガク、息も荒い。
それでも俺は、やつをジット睨み付けた。
渾身の気迫を込めた視線をぶつける。
「だ、だめですわマヒルさん! このまま撤退しますのよ! 相手も追ってこないようですし、今のうちに――」
「ベル……反撃だ」
「なっ……!?」
俺の肩を掴むベルを制して、一歩……また一歩とやつに向かって進む。
「……何か、考えがあるんですわね? 分かりましたわ。 でも、これ以上無茶したら引きずってでも撤退しますからね……!」
「……あぁ、そん時は頼むわ」
俺の後ろでは小さな詠唱の声と、刀を構える音が聞こえる。
全く、頼もしい仲間たちだよ本当。
やっぱり俺ができるのは、こいつらに繋ぐことだ……!
「ギュグアッ……!」
威嚇のつもりか苦し紛れか、俺を睨みながら《ロイヤル・バジリスク・ロード》が低く唸る。取り巻きたちもギャアギャア騒ぐ。
だが、進む。牛歩の如く――!
そして、ついにその時がきた。
「おいおい、そんなに俺に見とれてると――痺れるぜ?」
「ギュ、ギュガッ――!?」
次の瞬間、やつの体はバシィッと硬直し、小刻みに痙攣を始めた。
「「えっ!?」」
俺の後ろで、ベルとラヴィが同時に叫ぶ。
無理もない。なぜなら、俺はスキルを使うそぶりすら見せていない。
――にも関わらず《ロイヤル・バジリスク・ロード》は、突如として麻痺ってその場に崩れ落ちたのだから。
取り巻きの《バジリスク》たちは、いきなり倒れた主に、訳も分からず狼狽えている様子だ。
好機――!
「……フフッ、お前ら"お得意の技"を……受けた気分はどうだ……?」
あの時――
意識の狭間で習得した新スキル。
『スキル【這い寄る牙】を獲得』
【スキル:這い寄る牙】
効果:3秒間目が合った相手を5秒間麻痺状態にする。
MP消費:20
フフッ、睨まれたら睨み返せってか……?
最高の意趣返しじゃねえか。
やってやったぜこんちくしょう!!
「――そいじゃ、後は頼んだ……!」
俺は最期にそう叫ぶと、バタンと仰向けに倒れ込んだ。
――と同時に飛び出したのはベルと、彼女が召喚したセバスチャン。そして、刀を越元で構え気迫を纏ったラヴィだ。
うん、もう無理。立てない。
マジでもう、後は頼んだぞ……二人とも……!
「やっておしまい、セバスチャン!!」
ベルの号令と共に、首なし執事が猛進。
混乱する《バジリスク》の間をすり抜け、黄金の右アッパーがやつに炸裂した……!
「ギュワッ!?」
硬直したまま大きく頭を仰け反らす《ロイヤル・バジリスク・ロード》――その喉元、最初にラヴィの斬撃で負った傷から、鮮血を吹き出した。
「そこっ……!【羅刹】ッ!」
驚異の踏み込みで距離を詰めるラヴィ。
振り出した刀は、まるで吸い寄せられるようにぱっくりと開いた傷口へ向かい――
ザンッ――!!
一閃のもとに、全てを断ち切った。
降りしきる雨粒が、まるでスローモーションのように感じる一時。
直後、ゴロリと《ロイヤル・バジリスク・ロード》の巨大な頭が地面を転がる。
グロい断面からは、激しい血飛沫が吹き出した。
「キッ……! キシャァッ……!?」
残ってた《バジリスク》たちは、主が亡くなったかと思うとあっという間に四方へ散っていった。
……こっちとしちゃあ助かるが、随分と薄情なやつらだぜ。
まあ、何はともあれ……俺たちの勝利だ……!
超辛勝だけどな……!
「マヒルさん! 大丈夫ですか!?」
「マヒル殿!」
二人が俺の元へ駆けてくる。
その顔には、勝利の喜びというより、安堵と不安がごちゃ混ぜになったような表情が浮かんでいる。
「……ははっ、どういう顔、してんだよ。 俺たち、勝ったっていうのに……」
「だ、だってマヒルさん、ワタクシたちを庇ってあいつのスキル、【王蛇睨み】を受けたんですわよ!? それも、二回も…!!」
ベルはもはや、心配とかいうより怒ってないか?
目頭に涙を浮かべながら、顔を歪めている。
……っていうか、【王蛇睨み】っていうのね、あれ。
できればもう、一生喰らいたくないわ。
「ご、ごめんって。 でも、あの時はあれが最善策だと思ったんだよ。 結果的に、お前たちに繋ぐことができたからな……」
「け、結果論過ぎますわ!? ワタクシたちを過信して、あなたに何かあったらどうするんですの!?」
「ベル殿の、言うとおり。 マヒル殿、死んじゃうかと、思った……」
「うぅっ、悪ぃって本当に……でも、過信じゃなくて、"信頼"、な。 お前たちならやってくれるって信じてたからな。 ベル、お前だって俺を信じてくれただろ?」
「それは、そうですけど……もうっ」
「あいたっ! あがっ!?」
ベルに軽く頭をしばかれる。
続いて、ラヴィも俺の頭をしばく――が、素で力が強いもんだから今度こそ意識が飛ぶかと思った。
「も、もう、無茶はなるべくしない!……多分! ひとまず、勝利を祝って……休憩しようぜぇ……?」
「それは……賛成ですわ」
「うん。 もう、へろへろ」
そう言って二人は、俺を挟むようにして仰向けに倒れ込んだ。
いつの間にか小雨になっていた雨が、ちょっと冷たく、そして優しく顔を撫でる。
三人揃ってドロベッチャだ。
帰るのも大変だし、洗濯するのはもっと大変だろうなぁ……
そんな呑気なことを考えながら、俺はただ呆然と空を見上げていた。
――瞬間、空いっぱいに広がった灰色の雲が一斉に霧散した。
「……はっ?」
あまりの衝撃に、俺は空を見上げたまま動けなくなった。
視界いっぱいに広がるのは、不気味な程の青空と――それを遮るように空を覆う巨大な影。
「えっ――」
それは、何かと比較することすら難しい程に巨大なドラゴンだった。
怪しく光る銀色の角、太陽を照り返す純白の体毛。
ただただ美しく、荘厳で――途方もない何かだった。
一緒、チラリと目が合った気がしたが、そいつはあっという間に飛び去った。
俺たちはしばらく口を開くことなく、快晴の青空をただただ見つめ続けていた。




