14話 祝杯は串焼きとともに
冒険者ギルドでスライム討伐の報酬を受け取った俺たちは、真っ先に宿屋に戻ってシャワーを浴びた。全身泥まみれ、スライムまみれ……どっちがモンスターかわからん。
「はぁ〜、やっと人間に戻った気がするぜ……」
転生時に着ていたダボダボのスウェットも無事乾いてた。なんだかんだ、これが一番落ち着く。
体も服もサッパリした俺たちは、宿屋の店主ミレナさんに教えてもらった“安くてうまい酒場”へ向かう。
その名も──〔銀の猪〕。
名前の由来は知らんが、ミレナさんの情報なら信頼できる。それに、宿から徒歩三分。近いは正義!
* * *
扉を開けた瞬間、目の前に広がるのは──
「うおおお……!これだよこれ!こういうのだよぉッ!!」
俺のテンション、フルMAX!!
木造の温もり、ぶっといテーブルと椅子。
豪快に肉をかじる冒険者たち! 右には筋肉モリモリの戦士、左には黒ローブの魔導士風。そして奥の席には、まさかの──
「ふ、フルプレートの騎士!? 飯、食えんのかあれ……? てか風呂とか入れるのか……?」
「少しは落ち着いてくださいまし。恥ずかしいですわ」
すげえ、初めて見た……!もろファンタジーじゃねえか……!そんな興奮しすぎた俺の袖を、ベルがちょいちょい引っぱる。あぁ、現実に戻された。
ともあれ、メニューを見て──
「え、串焼き一本二十ゴルド? エールが百ゴルド? 安っ!!」
つまり、スライム二体も倒せば、しっかり晩酌できる計算。どうやらこの世界の通貨“ゴルド”は、日本円とほぼ同じ価値らしい。串焼き二十円、エール百円。……怖いくらいに物価が安い。
「こ、こんなに安いのですの……? なんだか、逆に不安になりますわ……」
とか言いつつ、メニューをじっくり眺めてるベル。
いや、食べる気満々じゃねーか。
俺は店員さんに即オーダー。
「エール、でっかいやつで! 串焼きは……とりあえず4本!」
「ワタクシは……水で」
「おま、水って! せっかくの祝勝会だぜ!? 酒とか飲まないのか?」
ベルはスッと背筋を伸ばして、令嬢モードで答えた。
「ワタクシ、飲み物はお紅茶しか飲んだことがありませんの。お酒だなんて、はしたないとは思いませんか?」
「……マジかよ、令嬢こえぇ」
(ていうか、飲み会文化とか無い世界なのか?)
「でもな、労働のあとの酒は、素晴らしいんだぞ!」
(ま、短期バイトしかしたことないけど)
「ん? もしかして年齢的に飲めない……とか?」
「はっ!? ワタクシは二十二歳ですわよ!? よ、よろしい……そこまで言うなら、飲んでやりますわ! エールを!」
げっ、年上だったのか……!
なんかショック。頼りなさすぎる……
「……なにか、言いたげですわね?」
「ぜ〜んぜん! お、来た来た! 早ぇな!」
注文してすぐ、なみなみに注がれたエール様と串焼き様がご到着!いかにも異世界感のある、武骨な木製ジョッキだ。ファンタジー!
「何はともあれ、かんぱーい!!」
「……か、かんぱい、ですわ」
ジョッキから立ち上る泡。キンキンに冷えたエールは、ほんのり苦くてフルーティー。
日本のビールより苦味は少なめだけど、酒の風味がガツンと来る。
「あ~~~~ッ、これだ! これが異世界の味!」
「……意外と飲みやすいですわね。思ったより苦くないですし」
「お、イケる口か? ……って、ちょ、ベル!? ペース早ぇって!」
ジョッキを両手で包んで、ぐびぐび飲むベル。その姿、まさに“上品な酒豪”。
気がつけば──
「ふふ……マヒル……おかわりを……持ってきなさいまし……ウフフ……」
「……嘘だろぉ……」
テーブルに突っ伏して、酔っ払った令嬢が串をペチペチしながら笑ってる。さっきまでの気品どこ行った。
俺は手を合わせ、残った串焼きを全部平らげ、ぐでんぐでんのベルをかついで宿へ帰る。
「はぁ……こいつ、かついでばっかだな」
ベルは俺の背中で幸せそうな寝息を立てている。
酒くさっ。
こうして俺たちの“初クエスト祝いの夜”は、酒とともに静かに幕を閉じた。
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