141話 不思議な贈り物
謎の相撲勝負を終えた俺たちは、それから何事もなく帰路を進んだ。
あの熱い戦いの後、興奮冷めやらぬポッピンがずぅっと喋り散らかしていたことだけが、唯一の問題ってとこだな。それに、ベルも同調して話し出すもんだから会話が途切れることすら無かった。
道中、終始自分の話をされていたラヴィは耳をパタンとたたんで顔を真っ赤にしていた。とんだ羞恥プレイだよ、かわいそうに。
何度か話題を振られる度に適当に相槌を打ち続けていると、いつの間にか街へ到着していた。
「お? おぉ……!もう着いてしまったのかぁ。 もっとラヴィお嬢ちゃんの話をしたかったのだけどねぇ」
「まったくですわ! これほどラヴィさんの魅力を語り合えるとは、ワタクシなんだか胸が熱くなりましてよ?」
「……も、もう、勘弁……」
ラヴィは荷台から降りると、フラフラと俺の後ろへ隠れた。
さっきの戦いより体力使ってねえか?ラヴィよ。
よしよし、とラヴィの頭をなでていると、なにやらポッピンが荷物の入った木箱を持ってきた。
「いやぁそれにしても、本当にお世話になったねぇ! これは、ほんの気持ちだから受け取って欲しいんだよぉ」
そう言うとポッピンは木箱を俺の前に置き、深々と頭を下げた。
「えぇっ!? い、いえいえ、俺たちはそんなつもりじゃないですって!こんなにいただけませんよ!」
「いやぁ、これは受け取っていただかないと、私の気が済みませんよぉ。 命を救ってもらって護衛までしてもらったのに、何一つお礼をしていないとなれば商人の名折れ。 ここはどうか、私の顔と商人の魂に免じて……」
ポッピンはいつになく真剣な表情で、ズイっと木箱を俺に押す。
……ゲームとかでなんとなく知ってはいたけど、まったく商人ってのは頑固なもんだよ。それに、こんな風に情に訴えかけられたら、絶対断れないっつーの。
「……分かりました。 お気持ち、ありがたくいただきますね」
「おぉ! それは良かったよぉ! じゃあ、早速なんだけど説明からさせてもらうねぇ!」
俺が了承したとたん、コロッと表情を変えて満面の笑みのポッピン。
まったく、商人ってやつは……
俺は呆れたように笑みをこぼした。
それから俺たちは、ポッピン選りすぐりの三つのアイテムを譲り受けた。
まず一つ目、命を助けてもらったお礼として渡された〔アイテム袋M〕だ。見た目は小さめのリュックで、真ん中はデカデカと”M”の刺繍がされている。
恐ろしくセンスを疑うデザインではあるが、リュックに入る大きさのものであれば、なんと三百キロまで収納することができるという神アイテムだ。普通に買えば百万ゴルドはくだらないそうだ。
さすが商人、太っ腹ぁ……
二つ目に、護衛をしてくれたお礼として〔商人優待券:銀〕という板を貰った。
こいつは、商人ギルド管轄の店で買い物する時の代金が、恒久的に五%オフとなり、その他様々な優遇を受けられるというお得商品だ。これさえあれば、あなたもお買い物上手!
そして三つ目、良い戦いを見せてもらったお礼にと〔名付けの羽ペン〕というものを貰った。丁重にガラスケースに入れられ、ぱっと見はオシャレな小物だ。制限はあるが任意の対象に好きな名前をつけられるらしい……って、何それどういうこと?
なにやら、ペット愛好家の間で爆発的な人気を誇る一品らしいが……まあ、貰えるものは貰っとこう。
「――さて、とぉ。 説明はザッとこんな感じだよぉ! 理解してもらえたかなぁ?」
「……うーん、まあ、羽ペン以外はなんとなく」
「んぁっはっはっは! まあ、何かの時は売ったらいいよぉ。それなりの値段で買い取ってもらえるだろうからねぇ」
ポッピンはそう言って再び笑うと、魔導荷車に乗り込んだ。
そして直後、俺に向かって手招き。
なんだろう、と思いつつ近づくと彼は鈍く金色に輝く腕輪を俺に手渡した。
「これは……?」
俺が尋ねると、ポッピンは意味深な笑みを浮かべる。
「んっふっふ……これはねぇ、〔素養の腕輪〕と呼ばれる魔道具。 なんでも、その人の力によって力に目覚めるとか、逆にその腕輪が新たな力に導く……なぁんて言われてる代物だよぉ」
「えぇっ!? そんな凄いもの、いただけないですって! すでにたくさんいただいてますし……」
「いやいやぁ、さっきのは正当なお礼の品だよぉ? これは、私から個人的な贈り物さぁ。 面白い出会いに、お近づきの印として」
そう言うとポッピンは出発の準備を始める。
まあ、もう何を言っても仕方ないんだろうな。ここはありがたく受け取っておくとしよう。
「……色々、ありがとうございました。 今度はお客さんとして利用させてもらいますね」
「うんうん、ご贔屓にどうぞぉ! それでは、またいつか会いましょう」
ポッピンは満面の笑みを浮かべて大きく手を振る。
魔導荷車はキィキィと音を立てて発進。あっという間に街の喧騒へと消えていった。
不思議な商人との奇妙な出会い。
これは後に、俺の物語を大きく変えることとなるのを今はまだ知る由もなかった。
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