140話 いきなり・スモウ・バウト!
「ギャギャオッ!」
「ぐっ、むぅ……!」
ラヴィと《ガッパンドン》はがっぷり四つの体勢のままぎりぎりと力を込め、激しい力比べを展開する……!明らかに体格差はあるのに、両者の力は拮抗している――!
「行けぇ! 押せ押せ!」
「ラヴィさーん! ファイトですわぁ!」
「……! むぅっ……!」
俺とベルの声援に応えるように、ググっと力を入れるラヴィ。
一見すると細身の腕に、しなやかな筋肉の隆起が現れる。なんというかもう、美しさすら覚える。
ラヴィはそのままジリジリと相手を押し始め――
「よぉし! いけるぞ!!」
「いや――あのままだと、危ないねぇ」
「ポッピンさん!?」
下がっていてと言ったのに、いつの間にか俺たちの隣にあぐらをかいて観戦しているポッピン。
その目は細く鋭く、まるで百戦錬磨の解説者のようだ。
「ポッピンさん、なんでここに!? それに、危ないってどういうことですか?」
「ふぅむ……ほれ、見てみなさい」
俺は促されるままラヴィと河童の相撲対決に目をやるが、相変わらずジリジリと相手を押しているラヴィ。やっぱり、危ない要素なんてどこにも――
次の瞬間、《ガッパンドン》はくの字に曲がっていた腕の力をガクンと抜き、一歩後退。全力で押していたラヴィは大きくバランスを崩した。
「「ああっ!?」」
俺とベルは同時に声を出す。
体勢を崩して大きく前のめりになったラヴィに襲い掛かるのは、強烈な張り手。
バッチィィィッ――!!
大きな手がラヴィの顔面を覆い、乾いた音が響く。
まっすぐに伸びきった《ガッパンドン》の腕と、そのあまりの衝撃に体が宙に浮くラヴィ。
決まり手は突き出し。
俺とベルは、思わず目を伏せる。
あれほど強烈な一撃だ……勝敗は決した――かに思われた。
「なにぃ!? あ、あれは……あの子は、まだ戦えるねぇ!」
ポッピンが興奮した様子で叫ぶ。
ハッと見ると、突き出したままの《ガッパンドン》の腕をラヴィは片手で掴んでいるではないか!
ラヴィは顔を真っ赤にして、鼻血を出しながらも……その目にはギラギラと闘志が宿っているようだ……!
「ら、ラヴィ! 頑張れ……頑張れぇっ……!!」
「お嬢ちゃん、すごいぞぉ!」
「……あんのドぐされ野郎、ラヴィちゃんの顔に傷をつけやがったなぁ、おぉ……? ラヴィさーん! ファイトですわぁぁぁ!!」
俺たちの声援にも、思わず熱が入る……!
なんか今ヤンキーみたいなのが混じってた気もするけど。
「こっからが、勝負……【超獣化】……!」
ラヴィの纏う空気が変わる――
風も無く川面はうねり、ラヴィの純銀の頭髪は天を突く。
金色のオーラを身にまとった、ラヴィの強化形態だ……!
「お、お嬢ちゃんが……金色の光をぉ……!? 幼く見えるのに、獣の力をここまで使えるとはねぇ……!」
ポッピンが思わず吠えた。
「ハルヴァンさんの修行の賜物です」
「……! なぁるほど。それにしても、あの子は強いねぇ」
「もっちろんですわ! なんてったって、最高のアタッカーなんですもの! 強くて、かわいい……まさに最強ですわぁ!」
ベルはまるで自分のことのように喜んでいる。
まあ、その意見には俺も完全同意だけどな。
「グギュア……」
そして、さすがの野生。《ガッパンドン》は警戒し、距離を取ろうとする――が、ラヴィに掴まれた手はギリギリと締め上げ、振りほどくこともままならないようだ。
「さっきの、技……どうやるの? こう?」
ギリィッ――
ラヴィはそう言うと、ガッシリと掴んだ《ガッパンドン》の腕を無理矢理引き寄せた。
「おぉ……お嬢ちゃん、全然違うねぇ。 でも、理にはかなってる、かなぁ?」
ラヴィの天然っぷりに、困惑する解説者ことポッピン。
過程はどうあれ、《ガッパンドン》は痛みに顔を歪めながら――バランスを崩した。
「できた……!」と満面の笑みを浮かべるラヴィ。
いや、全然違うぞラヴィ。さっきのは本来相手の力を利用した技であって、お前のはただの馬鹿力……まあ、なんだっていいか。あんなに嬉しそうなんだし。
「じゃあ、さっきのお返し――」
ラヴィはそう言うと、掴んでいた腕をパッと離した。
そして、まるで弓を引き絞るように腕を構え――
「【押蹄】!」
バヂィィンッ――!!
空気が張り裂けるような音が川岸に響く。
ラヴィの強烈……いや、激烈な突き出しによって《ガッパンドン》は大きくぶっ飛んだ!
そして、川を挟んで向こう岸まで飛んでいき、撃沈。
決まり手――大突き出しッ!!!
「ふんっ……拙者の、勝ちだね」
ラヴィはそう言って鼻血を手でぬぐう。
か、かっけぇ!……っていうか、なんかますます強くなってねぇか……?
ベルは一目散に駆けていき、思いっきりハグをかましている。
突如始まった大見物、名もなき川の相撲大会は彼女に白星がついた。
河原にはポッピンの大きな拍手が鳴り響いていた。
――いや、よく考えたらこの時間、なんだったんだ?




