139話 水面に映るは川のヌシ?
森での《トロル》及び《オーガー》討伐を終えた俺たちは、行商人のポッピンを連れて街道を進んでいた。俺たちはベルの操縦するレンタル馬車に乗っているのに対して、ポッピンは豪華な装飾が施された車のようなもの――曰く、”魔導荷車”に乗ってスイスイ進む。
「すっげぇ……もはや車じゃん」
「魔導荷車……話には聞いたことありますが、相当な代物ですわね。 確か、数千万ゴルドもするとか……」
器用に手綱を捌きながら話しかけるベル。
数千万ゴルドだなんて、もはや高級車以上じゃんか。
「げぇっ!? そりゃあ、俺たちとは無縁の代物だな……つーか、まじで凄い人だったんだな、ポッピンさんって」
俺はポッピンの底知れなさに狼狽えつつ、魔導荷車をちょいとだけ羨ましがった。
ほんの、ちょいとだけ。
それから俺たちは順調に進み続けたが、街まであと三十分というころで事件が起きた。
モンスターの襲撃だ。
少し深みのある小川に差し掛かったところで、奇妙なモンスターの群れが行く手を阻む。
全身緑色、背中に亀みたいな甲羅を背負った小さいのが二体と、筋肉質の体に鎧状の甲羅を身にまとったでかいのが一体。あいつらは、まさしく――
「……河童?」
誰がどう見ても、河童である。イメージする通りの、あの河童だ。
ぬるりと湿った緑色の皮膚、頭にはご丁寧にお皿のようなものまである。
確か日本では妖怪とかの類だったと思うけど、ここでは普通に出てくるんだな。
「あれは……《カワボウズ》! それから《ガッパンドン》ですわ!」
「いや、河童だろ」
「……くっ、まさか、こんなところで《ガッパンドン》に、出会うとは……!」
「いや、河童でしょ」
騒ぎを聞いて魔導荷車から降りてきたポッピンは、河童たちを見て一言。
「なっ……! これは珍しいねぇ! 《カワボウズ》と《ガッパンドン》の群れだねぇ!」
「ねえ、河童じゃないの?」
俺を除いた三人は、皆一様に《カワボウズ》だの《ガッパンドン》だの……
あーもう、分かりましたよ。民主主義に従って、あいつらはモンスターです!河童じゃないです!ちくしょう!
俺は改めて《ガッパンドン》の姿をよく目に焼き付ける。まあ、見れば見る程河童だけどな。
「ポッピンさん、下がっててください!……それで、あいつらどうする?」
「……倒すに一票ですわ。 あいつら、獲物を川にひきずりこんで川の底に石で沈めるんですわ」
「怖っ!」
「そして腐敗したところを、あのクチバシのような口でついばむんですわ……特に好物なのが、人間の子ども……!」
ベルはそう言って、ブルっと身震いした。
「……なんつう恐ろしい習性してんだ!」
「よし、倒そう。 でも、あのデカイ方、力強いよ。 川に引きずられたら、危ない」
ラヴィが静かに呟く。
確かに、見るからに力は強そうだし、見た目もどこか怪物じみてる。
胸糞悪い性質に実力もあるなんて、厄介極悪モンスターじゃねえか……!だが、正義の味方にして、子どもたちの憧れの的であるこのマヒル様が許しはしない……!
「沈むのは、お前らのほうだ! パラ――」
俺が言いかけた瞬間、河童たちは川に飛び込んだ。
「なにっ!? あいつら、隠れやがった!」
仮に射程距離だとしても、目視できねぇことには麻痺を撃てない……!
くそっ、どうすれば!
――なんてな。
「どこへ逃げようとも、俺たちは運命の元に巡りあう定め……くらうがいい、進化した俺の麻痺を!【磁力痺鎖】!」
ヴゥンッ――
俺は川に向かって、スキルを発動。黄色いオーラを放つ、半径二メートル程の球体がゆっくりと川面を撫でる。
以前は俺を中心にしか展開できなくて微妙な性能だったが……これなら充分戦闘に組み込める!
ビッ、ビビッ、ビビッ――
なんということでしょう……球体に向かって、小さいカニや魚がびたびたと吸い寄せられていくではいか!
そして遂に――大物ゲットだ!
「ギャア! ギャギャア!ギギギギギ――!?」
二体の《カワボウズ》が球体に引き寄せられ、そのまま麻痺った!
「ラヴィ、川には近づくなよ! ベル、魔法の準備は?」
「もちろん、ばっちりですわ!」
そう言うとベルは俺にウィンク一つ。
魔法陣を展開させ、首無し執事を召還した。
「うひぇっ、なんだぁ!? 新手のモンスターかねぇ!?」
ポッピンさんの悲鳴がこだます。
ああ、そうだった。この反応が普通なんだよな、多分。
俺ってば、目の前の異形に慣れすぎちゃってるわ。
ベルの召還したセバスチャンは、麻痺ったまま無抵抗な《カワボウズ》を滅多打ちに。
「うわぁ……えげつね――いや、頼もしいぜ……」
そして二体の《カワボウズ》を倒したところで、今度は《ガッパンドン》が水面から勢いよく飛び出した!
そのままセバスチャンと取っ組み合いに。
「いいぞ! セバスチャン! そのままやっつけろ!」
――が、ここで時間切れ。
召還されたセバスチャンはシュウッと消えていった。
だが、自分から飛び出してきてくれるとは、好都合!!
「ラヴィ!」
「むん……!」
待ってましたとばかりに、ラヴィは即座に居合斬りスキル【羅刹】を発動。
抜刀し、斬りかかったその瞬間――
ガキィッ――
鈍い音が響いた。
なんと《ガッパンドン》は、腕の部分に着けている甲羅で、ラヴィの一撃を防いだのだった。
「なっ……!? ラヴィの居合斬りを、いとも簡単に……!?」
よく見ると、甲羅に数センチ程刃が通ってはいるが傷を負わせるまでに至らない。
すぐに刀を構えなおそうとするラヴィだが、それよりも一瞬早く《ガッパンドン》が腕を引き、刀が手から離れて落ちた。
「むぅ……やるな」
「ギャギャア……」
ラヴィと《ガッパンドン》は互いに睨み合い、ジリジリと距離をとる。
そして次の瞬間、同時に動き出しがっぷり四つの構えに――!
これは……純粋な力比べだ!
いけ、いくんだラヴィ!!お前の力を、見せてくれ!!
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