13話 死闘、ラージスライム!
ぶるん、ぶるん。
ぶるん、ぶるん、ぶるん。
「な、なんか……こっちににじり寄ってきてますわよ、あのスライム……!」
地面が重低音で揺れる。まるでジェル状のタンクローリーが突っ込んでくるような迫力だった。人の三倍はある巨体で、ぶるぶると震えながら、あのスライムは確実に俺たちを狙っていた。
ベルがふらつきつつも立ち上がり、こちらを見る。
「マヒルさん、どうしますの……?」
「決まってんだろ……!」
俺は右手をスライムに向けた。空気がピリッと震える。
「見せてやるよ、俺の力を!――【ポイズン・パライズ】ッ!!」
ビビィィィッ!!
紫がかった雷のようなエフェクトがスライムに直撃。命中した部分が淡い紫色に染まる。
ズズ……
スライムの動きが、目に見えて鈍くなった。
「よし、今だっ!」
駆け出しながら、俺は叫ぶ。
「唸れ、相棒っ!!」
振り下ろしたのは、あの木の棒。どんな時も一緒だった、あの――
ボウンッ!
「うおっ!? 跳ね返ったっ……でもまだだああああ!!」
もう一発!さらにもう一発!怒涛の連打!
バキッ!
「……え?」
明らかに、イヤな音がした。
見ると、俺の愛棒が――
「うそだろ……折れてる……っ!?相棒ぉぉぉぉぉ!!!」
「最初からただの木の棒じゃありませんこと?」
ベルの冷静すぎるツッコミが、心をえぐる。
その瞬間だった。
「ぶふぅっ!?」
スライムの麻痺が解けたのか、跳ねる勢いで俺にぶつかってきて、俺は宙を舞い、地面をゴロゴロと転がる。
鼻に入った土が、青春の味だった。
「し、死ぬっ……これマジで死ぬやつっ……!」
這う。俺は這った。
追う。スライムは追ってくる。
「や、やめろぉぉぉぉ!【ポイズン・パライズ】!【ポイズンパライズ】!【ポイズン・パライズ】!【ポイズン・パラ――っ、あれ……?」
紫色のエフェクトが、出ない。出ろよ!出ろって!
じわじわと脱力感が押し寄せる。
「まさか……MP切れ……!?」
ガバッとステータスを開く。
MP【10】。
ま、まだ……パライズをギリ1発、残ってる……!
けど、スライムはもう目の前。ぬるぬると俺を包み込もうとしていた。
「この、バケモノっ! こっち向きなさい、ですわ!!」
ベルが石ころを投げつける。
スカッ――スカッ――ゴツンッ。
「あだっ!?」
スライムには当たらないのに、なんで俺に当たる!?当然スライムは止まらない。俺は苦し紛れの【パライズ】を撃つべく、右手を上げる。
「くっ……」
その瞬間だった。
ズズゥゥゥ……
スライムが――崩れ落ちた。
ぐしゃぁ……という音と共に粘液の塊がドサッと沈み、そして、中から――
「こ、これは……」
手のひらほどの、透き通った結晶体が、ごろりと転がり出る。「魔結晶……?」ベルが呟いた。
「……ってことは……勝ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
俺はもう、魂の底から叫んだ。
* * *
──こうして、なんとかスライムを討伐した俺たちは、ひいひい言いながら街へと戻った。
見た目はもう、ボロ雑巾。服はドロドロ、髪はベチャベチャ、全身からはぬるぬる臭が漂う。特にベルがひどい。 スライムに完全に呑み込まれたせいで、全身べっとり、巻き毛はしょんぼり垂れ下がり、お嬢様感は五割引きだ。
「はぁっ……はぁっ……ギルド……ギルドはどこですの……?」
「もう少しだ……頑張れベル……! 俺たちのゴールは……! 受付嬢のスマイルだ……!」
ふたりでふらつきながら、ギルドの扉を押し開けると──
「……ッ!なんですかその姿……大丈夫ですか?頭は」
受付のクールなお姉さんが目を見開き、直後に冷ややかな視線を向けてくる。いや、そりゃそうだよね。見た目だけなら即・病院送りレベル。にしても辛辣ぅ!
「だ、大丈夫……俺たち、帰ってきた……」
「……任務、完了ですわ……!」
ずるずると魔結晶を取り出す。手の平サイズが一つと、小粒が三つ。
「これは……スライム三体分と、ラージスライム一体……!?よく、倒せましたね」
「倒しましたとも……!」
「死ぬ思いで、ですわ……!」
俺たちの涙ぐましい献身(?)が実り、クエストは無事クリア。 そして、気になる報酬は──
「クエスト達成おめでとうございます。スライム一体につき百ゴルド、ラージスライムは五千ゴルドです」
「「ごせん……!!?」」
思わずハモった。いや、正直これが高いかどうかなんて分からないが、スライムとは桁が違う!
デカいとはいえ、スライムごときにそんな値段がつくとは思ってなかった。
三体合わせて三百ゴルドなんておまけだ。メインディッシュはやっぱり、ラージスライム様!
俺たちの目の前には、銅貨が三枚と銀貨が五枚入った箱が差し出される。どうやら、この世界はこういった貨幣制度をとっているようだ。
まあ、何はともあれ――
「はっ……ははっ……これが……勝利の味か……!」
「ようやく、報われましたわね……!」
汗まみれ、ぬるまみれの手を、俺たちは迷いなく──
「「ハイッ……タァァァッチ!!」」
でゅるんッ!
気色の悪い音と感触が響く。
「……うわぁ、やっぱりお風呂行きですわ」
それでも俺の心は清々しかった。
初めての冒険。初めての勝利。そして、初めての──
"仲間と分かち合う報酬"。
……うん、悪くねぇじゃん、異世界。
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