138話 ポッピントッピン良いリズム
自らをポッピントッピンと名乗った狸の亜獣人は、ゴマでもすりおろすかのように両手をスリスリスリスリすり合わせる。
「えぇと……ポッピントッピンさん、でしたっけ? ひとまず、ご無事そうでなによりです」
「そんなそんな、私のことはお気軽にポッピンとでも呼んでくださいぃ! マヒルさんたちのおかげで、まさに命拾いしましたぁ!」
「いやいや、たまたま通りかかっただけで――って、えぇ……?」
うん、聞き間違いでなければ、今こいつ、俺の名前を呼んだ……?確かに"マヒルさん"と言ったか……?
底知れぬ素性のポッピンに思わず、身構える。
「あぁ、そんなに構えなくとも取って食いやしませんよぉ! あなたたち、パライジング・グレイスの方々ですよねぇ?」
「……まあ、そうだが」
「あぁ、やはりやはりぃ! いやはや、お噂はかねがね聞いておりますよぉ! 獣人と人間の面白いパーティーがいて、なんでも特別な麻痺スキルを使うとか……先程の戦いを見て、ピンときましたよぉ」
ポッピンはそう言って、ウンウンと頷く。
どうやら、俺たちが思っている以上に俺たちという存在は知れ渡っているようだ。
全く、有名人は辛いねぇ……
「……もしかして、あなたは〔ポッピン商会〕のポッピンさんではありませんか?」
ベルが不意に尋ねると、ポッピンは目を大きく見開いて満面の笑みを浮かべる。
「おぉ、おぉ! 私のことを知っていただいているとはぁ……! いかにも、私はポッピン商会の会長にして、各地を練り歩くしがない行商人でございますぅ」
行商人、かぁ……なるほど、それなら高価そうな服も頷けるし、この妙な喋り方も営業職に向いている……かな?
「……けど、行商人がなんでこんな所に一人でいるんだ? 危うく、《オーガー》のおやつになるところでしたよ?」
俺が率直な疑問を投げ掛けると、ベルが服の袖をちょいちょいと引っ張った。
「マヒルさんマヒルさん、それはですね……彼は一人で品物の調達から販売を行う、凄腕の行商人だからですわ! もう、その手腕といったら商人たちの憧れの的なんですわ……!」
ベルのベタ褒めに、いやいやいやと手と首を振って謙遜するポッピン。ふわふわの毛がふんふん揺れる。
「凄腕、ねぇ……だったら、尚更護衛を頼んだ方がいいと思うんだが。 街からこんなに離れた所で、一人じゃ危ないですよ?」
「いやはや、急ぎで欲しい物があってねぇ。 それに、いつも護衛をしてる人はたまたま別の仕事が入っていたようでねぇ……普段は、凄腕の拳闘士にお願いしてあるから、安心安全なんだけどねぇ」
なーんか、危機感というか緊張感が足りないというか……
……っていうか、凄腕の拳闘士?しかも、護衛の仕事をする?そんなの、一人しか思い浮かばないんだが。
「……ポッピンさん、もしかしてその拳闘士って亜獣人の方だったりしますか? 白い」
「……! うんうん、そうなんだよぉ! 独特のスタイルで戦う男でねぇ、彼がいたら百人力さぁ! その名も――」
「「ハルヴァン」」
俺とポッピンが見事にハモる。
ポッピン、やけに嬉しそうにポンポン跳ねる。
「すごいねぇ! ハルヴァンのことを知っているんだねぇ!」
「ははっ……以前、倒れていた彼を助けようと《ゴブリン》の群れに挑んだことがありましてね。 結果的にただのお昼寝中だったらしく、自分でゴブリンたちをボコしてたけど」
「んなっ! ンァッハッハッハッハァ! そうそう、そういう男だよ、彼はぁ!」
「それに、それからも何度かお世話にもなってますしね。 特に、こいつの修行も手伝ってもらったり」
そう言うとラヴィが、フンスとファイティングポーズを取る。
「拙者の、師匠……!」
「……ほぉ。 あのハルヴァンが、そこまで他人に関わるとは珍しいねぇ。 よっぽど君たちが、面白かったとみえるねぇ」
ウンウンと頷くポッピンは、どこか嬉しそうだ。
「……それで、これからどうするんですか? 目的の物はゲットできたんですか?」
「んん? ああ、そりゃあもうバッチリさぁ! 後はもう、街まで帰るだけだよぉ」
「そうでしたか。 俺たちも丁度帰る所なんですけど、よければ一緒に戻りませんか?」
俺の提案に、ポッピンは目をまん丸くさせる。
そりゃあ、ついさっきまで悲鳴をあげてたような人を一人放っとけないからな。
「それは……ありがたぁいお話だけど、迷惑じゃないかねぇ?」
「……と仰ってるが、どうだ? ベル、ラヴィ」
「勿論、OKですわ! 高貴なる魔法使いであるワタクシがいれば、怖いものなしですわ!」
「拙者も……! 師匠仕込みのスキルで、お守りする」
二人とも、やる気満々のようだ。
こいつらのこういうところ、めっちゃ好き。
「……と、いうことです。 ハルヴァンさん程までとは言いませんが、誰もいないよりはマシだと思ってください。 少しの間、よろしくお願いします」
「……! とぉんでもなあい! こちらこそ、よろしくお願いするよぉ!」
俺とポッピンはガッシリと握手を交わす。
ふわふわの毛がくすぐったく、温かく、そして少しだけ力強い。
旅は道連れ世は情け、とも言うしな。
そんなこんなで奇妙な一向となった俺たちは、街への帰路についた。
――まあ、少なくとも退屈することは無さそうだ。
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