136話 伝説の防具
「さあ、みんな行くぞ……!」
肩で風を切り、うっそうとした森へ足を踏み入れる。
ラヴィからの贈り物、鎖帷子をその身に纏い――
今朝、俺は贈り物を受け取ってすぐに、クエストを受けた。すぐにでも何かをしないと、俺の心がもたないと思ったからだ。
――それでも、鎖帷子の重みが今朝の恥辱を嫌でも思い出させる。
こうなったら、もう、モンスターに八つ当たりするしかないじゃんよぉ……!!
ーーー
【討伐クエスト】
依頼内容:トロル二体の討伐(Cランク推奨)
目的地:アルクーン南東の森
報酬:25000ゴルド
備考:森のトロルの鳴き声がうるさくてかなわん!頼むから、どうにかしてくれ!!
ーーー
* * *
「それにしても……意外と動きやすいもんなんだな。 てっきり、重くてぶっ倒れちまうかと思ってたよ」
俺は初めての鎖帷子鎖帷子の着心地に、若干の感動を覚えていた。
肩をぐるんと回しても、サッと体をかがめても、チャリチャリとした小さな音がなるだけで、他はほとんど気にならない。
「それは……多分、特別製、だから」
「特別製?」
そう言えば、これを渡す時に"特注品"とか言ってた気がするな。
「《ミノタウロス》、覚えてる? けっこう前に戦った」
「んん~……あぁ、俺が【麻痺銃】を習得した時の牛のバケモンだな。 それが、どうかしたのか?」
「あの時拙者、斧、貰った。 戦利品として」
「……そう言えば、そんなこともあったような……?」
言われてみれば、ぼんやり思い出してきた。
ラヴィが身の丈以上もある《ミノタウロス》の戦斧を、ズリズリ引きずって歩いてたのを。
「……えっ、まさかこれって」
「そう。 鍛冶屋にお願いして、斧から作ってもらった、特注品」
すげぇ……
あんないかつい斧をこんな繊細な装備に作り替えたの?鍛冶屋すげぇ……
「でも、いいのか? そんな大層なもん俺にくれちゃっても」
「……うん。 マヒル殿、すごい力持ってる。 けど、その服だと、ペラペラ過ぎる」
「あ、そう……」
うん、確かに、ほとんどスウェットを着てるもんね。たまに違うの着てる時も、宿に備え付けの服着てるもんね、俺。確かに紙耐久。
「良かったですわね、マヒルさん! ラヴィさんの凛々しい鎧に、ワタクシの煌びやかなバトルドレスに比べて、あなたってば動きやすくて手触りの良い服ばかりでしたものね!」
そう言ってベルは嬉しそうに高笑い。
……っていうか、けなしたいのか褒めたいのかどっちなんだよ。
「まあ、防御力皆無だったのは認める。 だが、ラヴィからの想いのこもった装備に加えて、"アレ"を身に付けたら俺は――!」
そう言って俺は、密かに隠し持っていたハーロウの忘れ形見、夜露のマントを華麗に装着ッ!!
バサァッと空を舞い、木漏れ日を跳ね返したマント。星空のように濃い群青色がキラキラと光る。
「これが、俺の最終形態……! さながら、伝説の装備に身を包んだ"勇者サマ"ってところか……?」
ここぞとばかりにポーズを決める。
鎖帷子がチャリっと鳴った。
そして、しばしの静寂。
「……うん、かっこいいよ、マヒル殿」
やめてよラヴィ。その慰めるような、励ますような優しい声をかけるのは。
「……と、ともかく! 俺はこれで防御力も格段に上がったんだ! どんな敵が来ようとも――はぶぁっ!?」
ドガァッ――!!
瞬間、腹部に鈍い衝撃が走る――
全身に痛みを覚えながら、ゴロゴロと地面を転がる。
「マヒルさん!!」
「マヒル殿!!」
「……ってぇ……!! クソ痛ぇ! なんだ、何があった!?」
思いきり腹にパンチをくらったみたいな衝撃。
ゴトリと音がして、見ると拳より余裕で大きい石がそこにあった。
「マヒルさん、大丈夫ですの!?」
二人が慌てて駆け寄る。
「あ、あぁ……なんとか。 それより、何があった?」
「……多分、その石が飛んできた。 投げたのは、《トロル》だと、思う」
「……まぁじ?」
馬鹿じゃん、こんなデカい石投げるなんて。
学校で、石を投げてはいけませんとか習わなかったの?まじで。
……にしても、鎖帷子あって助かったわ。ラヴィ様々。
「念のため、回復しますわね! 【ヤヤヒール】!」
ふわぁっと淡い緑の粒子が俺を包む。
効果のほどは相変わらずで、気持ち楽になったかな?程度ではある。
「サンキュー、ベル。 それに、ラヴィ。 これがなかったら、大怪我じゃ済まない所だったわ」
「……ううん、お役に立てて、よかった」
俺は二人に手を貸してもらい、立ち上がる。
そう、怒りに燃えて。
「おいこるぁ!! 危ないだろ馬鹿たれがぁっ! 来るならこい!俺が相手だ――ぶんげっ!?」
再び、衝撃が走る。
そして転がる。尚も立ち上がる。
今度はどうやら、ぶっとい木の枝――というか、丸太ってレベルのをぶん投げてきやがった。
「……あったまきたっ……!!」
俺は怒りに震える右手を空に突き出す。
一度ならず、二度までも。俺に地面を舐めさせた代償はでかいぞ……?
震えて眠れ、くそトロル――!!
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