135話 愛ゆえ重く、それもまた嬉し
恐怖のハロウィンから数日が経ったある日。日に日に寒さは厳しさを増し、人肌恋しいこの季節――
いきなり部屋に押し掛けてきたラヴィから、恥ずかしそうに顔を赤らめて「渡したいものがある」と言われた。
これはあれか?モテ期到来ってやつか……!?ラヴィってば、俺のことをそんな目で見てたのか……!?
これを期に、人生初の"お付き合い"というものに発展しちゃうのか……!?
俺は万に一つの可能性に胸を踊らせながら、自室でそわそわしながら待っていた。なぜか、ベルと一緒に。
「……なんで、お前がいるんだよ」
「……べ、別にいいじゃないですか」
どこから話を聞いていたのか、いつの間にかしれっと隣にいるベル。
「あれだろ、「ラヴィさんを独り占めするなんてズルいですわ!」とか思ってんだろ」
「……ふ、フンッ! なんのことだか分かりませんわね!」
「お前なぁ……せっかくラヴィが、俺に愛の籠った贈り物をするって言ってるのに、野暮だとは思わないのかね?」
「なぁっ!? だ、誰もそんなこと言ってませんでしたわ!! "ただ"の贈り物ですわ!!」
ベルは立ち上がり、大声で猛抗議。
「おまっ、"ただ"のとはなんだ"ただ"のとはっ!!」
俺も立ち上がり、抗議する。
――とその時、『コンコンッ』と扉をノックする音が聞こえた。
「……マヒル殿、入っても、いい?」
き、きたっ……!!
でも、待ってくれ、心の準備が……!!
「待ってましたわ! どうぞ入ってくださいまし!」
「おまっ、何勝手に!?」
「あれ、ベル殿もいるの……? じゃあ、入るね」
俺、心臓バクバク。
心拍数が有頂天。
そして、扉がゆっくりと開く。
やはり、どこか恥ずかしそうな表情を浮かべるラヴィと――その手には粗く梱包された包み紙。
「やあ、ラヴィ……待ってたよ。 ごめんな、一人変なのがいるけど」
精一杯のイケボを意識して優しく語りかけると、ラヴィは小さく首を振った。
「ううん、大丈夫」
隣ではベルが「お前マジか?」みたいな顔で俺を見ている気がするが、そんなのどうだっていい。
今は俺とラヴィの時間なんだから――
「あの、これ……もしよかったら、使って欲しい」
贈り物を持つラヴィの手にキュッと力が入り、包み紙にうっすらとシワがよる。
意を決したように、それをおずおずと差し出すラヴィ。あぁ、なんていじらしいのだろう……
俺はそれを、まるで赤子を抱っこするかのように優しく、大事に、丁重に受け取り――
「おぼぉッ――!?!?」
予想外の重みに、伸ばしきった両手はグンと下がり、思わずスクワットような体勢になった。
それを見てベルはニヤニヤしている。あのやろうマジで。
「お、おぼぼぉっ……思いのほか、ズッシリしてるんだな……ちょっとだけ驚いた、ぜ」
なんとか体勢を立て直す。
改めて、重い。いや、激重って訳じゃないが両手にズッシリくる。しかも、なんかチャリチャリ音がしてる。これが、愛の重さってやつ……?
「ところでラヴィ、これは一体……?」
俺が聞くと、ラヴィは恥ずかしそうに顔を背けながら「鎖帷子」と言った。
「く、鎖……え、何?」
「鎖帷子……それも、特注品」
呆然と、包み紙を眺める。
じんわりと広がる重量感。鎖帷子ってあれだろ?鉄でできた服ってことだろ?やったぁ、防御力アップじゃんちくしょう。
「お、おほほほほ!! おほほっ、ゴホッゲホッ……!! 良かったですわね、マヒルさん! 想いのこもった贈り物ですわ!何を勘違いしていたのか知りませんけど――はばばばばばッ――!?」
俺はごく自然に、流れるように【パライズ】を発動。
ガクガクと震えながら、ベルはベッドに倒れこんだ。
「……ありがとう、ラヴィ」
俺が心の底から絞り出して言った言葉を聞いて、ラヴィは嬉しそうに微笑んだ。
そりゃあそうだ。人生、そううまくいくもんじゃないよな。謙虚に、謙虚に……
俺は泣いた。
心の中で、ちょっぴり泣いた。
鎖帷子がチャリっと鳴った。




