133話 毎度お馴染み、ギルドの乱
ハーロウとの激闘を終え、アルクーンの街まで辿り着いたのはすっかり日が昇った頃だった。
夜通しオバケたちと戦い続け、最後には明らかに格の違うモンスターとも戦い、満身創痍の俺たちは宿につくなりバタンキュー。そのまま夕方近くまでぐっすりと泥のように眠った。
何となく目が覚め、二人を連れてギルドへ諸々の報告をしに行ったが、そこでもまた一波乱。
「あのう……ハロウィンモンスターを狩ってきたんですけど、鑑定お願いできますか? それから、これも」
そう言って俺は、ビー玉サイズの魔結晶をたくさんと、顔くらいある巨大な暗紫色の結晶――《ロイヤル・リッチ》の魔結晶を鑑定箱へ詰め込んだ。
ハーロウとの戦いで得たものは三つ。まずはこの世界にはとんでもない相手がいるっていう教訓。それから、このでっかい魔結晶に、ハーロウが身に付けていたマントだ。
厳密に言えば大きさや形状はやや異なり、手にした時に現れたウィンドウには〔夜露のマント〕とかかれていた。いちいちカッコいいな。
形とか色合い的になんとなく男物っぽかったし、ハーロウの忘れ形見な気がして、みんなと話し合った結果俺が譲り受けることとなった。これを売るなんて、とんでもない。
鑑定を依頼してからしばらく待っていると、セラ姐が鬼の形相で迫ってきた。
「マ、マヒルさんっ!? これは……この魔結晶、どうしたんですか!?」
「うおっ、顔怖ぇっすよ……それに、どうしたもなにも、壮絶な戦いの末に手にした努力の結晶ですよ」
セラ姐の迫力に圧されつつも、俺は得意気に答えた。
「はぁ……? いや、これは《ロイヤル・リッチ》の魔結晶ですよね!? 危険度Bはくだらない、強敵ですよ!?」
「……俺たちが、倒せるハズがないと?」
「いや、それは……」
俺が目を細めてそう聞くと、目を泳がせてしどろもどろに答えるセラ姐。図星かい。
「相当ギリギリの戦いではありましたけどね。 あのハーロウってやつ、間違いなく過去一の敵で――」
「ハーロウッッッ!?!?」
夕暮れ時、少し静かな冒険者ギルド内にセラ姐の絶叫がこだます。いつかの酒場で、ドスの効いた声を聞いたことはあったけど、シラフの状態でセラ姐の絶叫を聞けるとはな。
俺たちの様子をなんとなく見ていた周りの冒険者や、他のギルド職員の視線が痛い。
「は、は、ハーロウですって!? いや、そんかハズ――でも、確かに魔力反応は異常な数値を――」
セラ姐はアゴに手をやり、ブツブツと独り言。
早足になってあっちへツカツカ、こっちへフラフラ。
しばらく考えた後、カッと目を見開いて俺を凝視。
「マヒルさん、もうしばらく待っていていただけますか? できれば一時間程」
「一時間ッ!?」
"しばらく"の範疇を優にオーバーしてる気がするんですが。
「なにせ、もう少し詳しく調べないといけないですし、色々と聞かないといけませんので」
まいったなぁ……
いや、特にこの後予定もないから、断る口実がなくてまいったなぁ……
「うーん……それでしたら、残るのは俺だけでも大丈夫ですか? 二人とも、もろに魔法をくらって疲れてるハズなんで」
「それは、構いませんが……」
ベルとラヴィは、何か言いたげに俺を見てくる。
二人揃って、頬をぷくっと膨らませて。可愛い。
「マヒルさん、ワタクシ全然元気ですわよ? ほら、ご覧の通りピンピンですわ!」
「せ、拙者も! ほら!」
二人して元気アピール。
なんだよ、構ってちゃんかよ。
「でも、ダメだ。 お前ら二人そろってぶっ倒れてただろ? 何があるとも分からんから、念のため休んでてくれ」
「仲間外れ、反対ですわ! ワタクシたちは、断固として抗議するー」
「するー」
ベルとラヴィはまるで、デモのように何度も手を掲げる。やめなさい、恥ずかしい。
え、なんでそんなに?倒れてた割には、引く位元気じゃんコイツら。
「……俺としては、今夜の宴の為に体力を温存して欲しかったんだが――」
「それでは、宿屋で待ってますわね! なるべく早く帰ってきてくださいまし!」
俺が言い終える前に、ベルはラヴィを引っ掴んでギルドを出ていった。ようやく静かになった……
それから待つこと一時間弱。先程までとうってかわり、いつものクールな表情でセラ姐がやってきた。
その後ろでは、明らかに俺が来てから慌ただしく動き回るギルド職員たち。まーたやらかし案件か、これ。
「マヒルさん、大変お待たせいたしました。 照合の結果、《ロイヤル・リッチ》の"名有り"と判明いたしました」
「……なんですか、その名有りっていうのは」
「名有りは、同一種族においても秀でた能力を有している特別なモンスターにつられる称号、肩書です……って、冒険者なのになんで知らないんですか」
「はい、すいません……」
あれか、俺のよく知ってる言い方だとユニークモンスターとか言うやつか。今回はハロウィンってことだから、ハロウィン限定の超特殊なモンスターの討伐に成功したってことか?大手柄じゃん。
「……ともあれ、恐怖の帝王ハーロウの討伐ありがとうございました。 今回の件につきましては、後日正式な報酬をお渡しする予定ですが、今はひとまずこれを」
そう言ってセラ姐が差し出した容器には、金貨が七枚――つまり七万ゴルドと、見たことない白いコインが五枚。
「……? これ、何ですか?」
「これは、金貨の上……通貨の最上位の単位、白金貨です。 これ一枚で、百万ゴルドです」
「ひゃっ――!?」
なんとなくで容器を受け取った手が、震える。
おいおい、そんな軽~く言ってるけど、俺的には大事件なんだが!?そんな大金、もっと丁重に扱えって……!
「正式な報酬が出るまで、ひとまず白金貨五枚……つまり、五百万ゴルドを報酬としてお納めください」
「ごひゃっ――!?」
それからの行動は早かった。どこか現実味のないフワフワした気持ちで宿へ戻り、ひとまず、何も伝えずに、知ってる限りの高級な酒場に出掛けた。
もう、こんなん、飲まなきゃやってられんでしょ!!




