131話 決戦、ハーロウ!!④
「――はぁ、はぁ……どうだ、ちったぁ効いたんじゃねえか……?」
麻痺の連続使用に加えて、スタンブレイカーによる大技も発動。残りMPも少なく、脱力感と疲労感が波のように押し寄せる。
大きく肩で息をしている所に、ベルとラヴィがフラフラと近付いてきた。
「……ふ、二人とも……無事でよかった」
顔色は悪く、明らかに疲労の色は見えるものの、目立った外傷も無い。それを見て安堵した俺は、思わずへなへなとへたりこんでしまった。
ベルとラヴィは無言で手を差し伸べ、俺もまた無言でその手を掴み、なんとか立ち上がる。
多分――いや、ほぼ確証に近い"思い"が俺たちの中にあった。
『ハーロウはまだ、生きている』
あれ程の力の差を見せつけられた以上、こんな簡単に終わるとは誰も思っていなかった。だからこそ、満身創痍ながらも戦意の灯火は、誰一人として消していなかった。
「……ハーロウ、起きているんだろ」
俺の言葉に、地面に横たわったままのハーロウ手がピクッと動いた。
直後、何事も無かったかのようにムクリと起き上がる。
「はぁ……やっぱりな。 どうせ、そんなに効いてないんだろ」
俺がふてくされたよう言うと、ハーロウはニヤリと笑った。
「フッフッフ……いや、実に見事な一撃だったぞ。 ダメージを負うなんて、数十年振りだ」
そう言いながらハーロウがパパッとローブをはたくと、所々破れ、傷付いていた服があっという間に元通りになった。
「……ここまでやって、自分の服を直す余裕もあるのかよ。 けっ、やってらんねぇな」
「衣装なくして、我輩に在らず……と言ったところだ。 身に付ける物は、すなわち自身の分身であるのだよ」
これ見よがしに、ご自慢のローブを見せ付けてくるハーロウ。
対して俺たちは、ひどくボロボロだ。連戦に次ぐ連戦で、見た目だけじゃなく中身も相当なダメージを負っている。
なんとか話を引き延ばして、もう少しだけ回復に努めたいが……
ハーロウは俺たちの様子を気にも留めず、空の方をチラチラ見ている。
「ふむ……あと少しで朝日が登る。 名残惜しいが、別れの時が近付いてしまった」
「……決着を付けるってのか?」
「あぁ、そうだな」
ハーロウは目深に被っていたローブをバサッと外す。ハッキリと現れたその素顔は、骨と皮だけのように痩せ細ってはいるものの、どこか優しそうな雰囲気を感じた。
「……我が名は、ハーロウ。 《ロイヤル・リッチ》にして、夜を統べる恐怖の帝王だ。 深淵の恐怖に挑む、愚かで勇敢な者たちの名を是非とも聞かせてくれ」
一瞬の静寂が流れる。
彼の真意は計りかねるが、ここは名乗らねば失礼というものだろう。
「……マヒル=パライザー。 麻痺を愛し、麻痺に愛された男だ。 あの世にいってもよく覚えとけ」
俺の様子を伺っていたベルとラヴィも、一歩前に踏み出す。
「ベルフィーナ=エーデルワイスですわ。 道は違えど、あなたと同じく魔導を追及する者ですわ」
「……ラヴィーナ=シルヴァリオ。 真の武士道を、探す者」
全員の名乗りを聞き終えるで、ハーロウは何もせず、ただ静かに耳を傾けていた。
そして、再びフードを被り直すと、仰々しく天を仰いだ。
「フフフ……フハハハハッ……! 面白い、実に面白いぞ! 奇妙で愉快なパーティーよ、我が漆黒の前に、ひれ伏すがよい! 受けてみるがいい【甘美なる悪戯】!!」
ハーロウが高らかと叫ぶと、これまでと比べ物にならない程の巨大な魔法陣が出現。夜空を吸い込んでいるかのように、ドス黒いオーラが魔法陣に集束――
次の瞬間、巨大なカボチャ頭が姿を表した。見た目こそ、先程のジャック・オーとかいう死神風のカボチャ頭に酷似しているが、何よりデカさが違う。頭だけで数メートルはあるだろう。
ガチャッ、ギチッ――っと音を立てて這い出てきたそれは、まさに異形の寄せ集め。体を構成している大部分が、これまで戦ってきたハロウィンモンスターによって形作られている。
「んなっ、なんですの!? この滅茶苦茶な造形は……! ああっ、きゃわいい《ホロウ》まで体の一部にされておりますわ……!」
「オバケたちの集大成って感じか? ハロウィンパーティーも、いよいよフィナーレだな!」
「……デカイ。 マヒル殿、これ、いける?」
ラヴィは俺にそう聞いてきたが、俺を覗き込むように見つめるその顔は、落ち着いた笑みを浮かべていた。その表情には、ラヴィから俺への強い信頼を感じられる。
いけるかって……?おいおい、そんなもの、聞かなくったって分かるだろ?
俺はラヴィに「ふっ」と笑い返すと、右手を巨大な怪物に向けた。
「……当たり前だぁ――! 派手に痺れろ!【パライズ】ッ!!」
稲妻エフェクトが空を切る――
【パライズ】の直撃を受け、怪物はガチャガチャ、グラグラと大きく揺れ動く。
「……さすが、マヒル殿……! 拙者も、続く! 斬り開け!【羅刹】ッ!」
ラヴィの凄まじい斬撃が、なんとかその巨体を支えていた怪物の腕を一閃――
腕に深い切れ目が入り、バキィッと乾いた音をたてて崩れ落ちる怪物。直後、ドガァッと激しく地面にぶつかるカボチャ頭。
「お~っほっほっほ!! これで、最後ですわ……! 数々の恐怖を超えたその先で、ワタクシの開いた新境地……!」
ベルが魔法陣を展開――
これまで見たことのない、白く厳かな……それでいて力強い魔力が溢れ出す。
「こ、こにきて新魔法だと!? おう、いいぞ!やったれぇ!!ベルッ!!」
「……! この力、"聖"属性の魔法だと……!? これは我輩が最も嫌悪する力! フフッ、いいだろう。受けて立つぞ、ひよっこ魔法使い……!!」
ハーロウの両目がカッと見開く。
どこか、嬉しそうな感情を秘めて――
「フフフ、ワタクシの勇姿――とくとご覧あそばせ……! 祝福の名の元に、我等が敵を貫きたまえ!【聖なる槍】ッ!!」
魔法陣に白い光の粒子が集まり、巨大な槍先を形成。
そしてまばゆいオーラを放ちながら、暗黒の異形目掛けて一直線に飛び出し――
バギッ、ベキィバキャァッ――!!
光の槍は巨大なカボチャを難なく貫くと、その巨体を串刺しよろしく突き進んでいき――
怪物の後ろに佇むハーロウの胸元へ、深々と突き刺さった!!
「ぐおぉぉぉッ――!!」
あの巨大な怪物は、まるで幻だったかのように姿を消し、残ったのは胴体にポッカリと穴が空いたハーロウだけ。
いくら彼が強くても、あの傷は致命傷だろう。
一歩、二歩とよろよろ後退り、仰向けに倒れ込むハーロウ。
明け方を待つ夜の街道に、今宵幾度目かの静寂が訪れた。
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