129話 決戦、ハーロウ!!②
遂にその力を解放したハーロウ。
正直、立つのもしんどいくらいの圧倒的な力をビシビシ感じるが、俺には麻痺がある……!
いくぜ、先手必勝――!!
「【パライズ】ッ!!」
バチィッと稲妻エフェクトが弾ける。
放たれた麻痺は一直線にハーロウへと向かい――命中。
「むっ、ぐぐぅっ――!」
ガリガリに痩せ細った手足を小さく痙攣させるハーロウだったが――
「ふむ……状態異常、それも麻痺か。 ふぅむ、耐性はあるはずなんだがな」
確実に麻痺ったはずのハーロウは、まるで何事も無かったかのようにそこに立っていた。
「なっ……!?」
「んん? 何をそんなに驚いているんだ。 ただの【自動浄化】だ。 念のため、常に発動させていたんだが、正解だったな」
ハーロウは、ニヤリと笑う。
「オート……?」
「【自動浄化】、ですわ。 状態異常になると自動で発動して、状態を回復。そしてその状態異常への高い耐性を付ける、上級魔法ですわ……!」
俺は訳も分からず、ガックリと膝から崩れ落ちた。
だから、麻痺ってもすぐに動けていたのか。
俺の麻痺を、いとも簡単に――
「強い魔法ではありますが、消耗が激しい魔法ですわ。そんなものを発動させ続けていたら、普通ならすぐにMP切れですわ。 つまり、あいつは……」
「――普通じゃない、ってことか。 んだよ、それぇ……!」
なに?常に状態異常を回復する魔法?
それをいくらでも使える程のMP量?
チートですか?そんなん、”俺特効”過ぎるだろ!!天敵じゃん……!麻痺の……!
「マヒル殿、ここは拙者が……!」
ラヴィが小さく呟くと、低く腰を構え――
一瞬のうちにハーロウとの距離を詰め、刀を振りぬく。ラヴィの必殺の居合スキル、【羅刹】だ。
しかし、ラヴィの刀はむなしく空を一閃。ハーロウの体は、切っ先が触れた瞬間黒い霧となって消えた。
「なっ……!」
「消えた、ですの……!?」
驚く俺たちの後ろから、不適な笑い声が聞こえた。
「【真実の虚影】。 なかなか鋭い一撃だったが……吾輩には届かない」
ラヴィがギリィッと歯を食いしばる。
そして再び刀を構え――
「……それなら、何度でも……ッ!」
「ラヴィ、待て――!!」
俺の制止も聞かずに、再び攻撃をしかけるラヴィ。
しかし、またもや黒い霧となって姿を消したハーロウ。
「フッフッフ……獣人の娘よ、ただ突っ込むだけとは芸がないな。しばらく休んではどうかな? 【悪夢の風】」
姿を現すと共にハーロウは魔法陣を展開。
すかさず攻撃の構えを取り直すラヴィに向かって、身震いする程の暗紫色のオーラがグオォッと音を立て、まるでラヴィを飲み込むかのように吹き抜けた。
「うぐぅっ……!」
唸り声にも近い、ラヴィの低い声が響く。
そして、力なく膝をつくラヴィ。なんとか立ち上がろうと刀を地面に突き立てるが――
「ラヴィ……!!」
「……うっ……ご、ごめん……」
するすると刀の柄から手が離れ、ラヴィは力なく倒れ込んだ。
「ラヴィさん……!! こんのッ――いきなさい、セバスッ!! えぐり倒しなさいッッ――!!」
ベルはラヴィに駆け寄りながら、【サモン・セバスチャン】を発動。
首無し執事が怒涛の如く駆け迫る――しかしハーロウも魔法陣を展開。
「相手してやれ、【サモン・ナイトメアジャック】」
「ギシャアァァァッ――!!」
ハーロウの魔法陣から現れたのは、まさに死神。
黒くたなびく霧のようなマントに身を包み、腰には魂を思わせる青い灯りのランタン。
カボチャ頭の奥には苛烈な赤い灯が揺れ、容赦なく大鎌を振りかざす。
ザンッ――!!
ジャック・オーの一撃により、いとも簡単に両断されたセバスチャン。
上半身と下半身にズルリと別れ、淡い光の粒子となって消えていった。
「そ、そんな……」
あまりにも一瞬の出来事に、ベルは茫然と立ち尽くす。
そこへトドメを刺すように【悪夢の風】が迫り――
「ベルッ!!」
「マヒルさ――」
一瞬俺に手を差し出したベルだったが、暗紫色のオーラに声はかき消され、その全てが飲みこまれた。
そして、静寂――
紫色の魔力の残滓と共に現れたのは地面に横たわるベルの姿だった。
「ああ……あぁ……」
勝てない。
俺の麻痺も、ラヴィの剣技も、ベルの魔法も効かない。そして二人の仲間が倒れ、無力な俺だけが残った。無理だ。これは……格が違い過ぎる……
今まで、どこか「いけるんじゃないか」と思っていた自分に腹が立つ。
ハーロウからしてみれば、遊び感覚。俺たちなんて、子ども同然――いや、赤子のようなちっぽけな存在なんだろう。
ぼんやりと、ハーロウに目をやる。
その姿は、今までとは比べ物にならないほど巨大に見えた。俺の体は無意識に震え出し、身体の芯から恐怖に支配されていく――
「……うぅっ……」
小さな、うめき声が聞こえた。
でも、そんなものどうだっていい――みんな、ここで終わるんだから――
「マ、ヒル……さん……」
「……ベル?」
闇に呑まれかけていた俺の思考は、かろうじて現実に引き戻された。
ベルはまだ、生きている。少なくとも、今は。
ベルはギリギリと顔を上げると、何かを訴えるかのように俺を見つめる。
「…………逃げ、て……」
ベルが絞り出すように放った言葉は、他でもなく俺の身を案ずる言葉だった。
それだけ言うと、ベルの頭はパタリと地面に落ちた。恐らく、最後の力を振り絞ったんだろう。
そうまでして伝えたいことが、「逃げて」だと。
――こんな状態だってのに、人の心配するなんてとんだお人よしだ。
ハハッ、本当、お人よしにも程があるっつうの。
そんなことをされたら……そんなことをされたら――!!
「意地でも、逃げたくねぇッ――!!」
「……ほう。 己の無力を知りながらも、まだ吾輩に向かって来ようというのか? この、恐怖の帝王に」
ハーロウは腕を組みながら、不敵な笑みを浮かべる。
「はんっ、”恐怖の帝王”とか、知るかってんだ……! 仲間を見捨てて逃げるほうが、俺にとっては恐ろしいっつうの……!!」
「ハハッ、無理をするな……足が震えているぞ?」
脚が震えてるだぁ?ああ、分かってる。
んなこたぁ、分かってる。怖ぇよ、滅茶苦茶に怖ぇよ……!ガクブルだよ……!
――それでも、立たずにはいられないだろうが……!!
「こ、これは、武者震いだ……! 今からお前を倒す為の……!」
そう言って俺はスタンブレイカーを『カシャンッ』と展開。
こうして、ハーロウ対俺という、無謀極まりないタイマンが始まった。
俺はすかさず右手を掲げ、【パライズ】を発動――
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