12話 ベルがスライムに"ぬるぬる"にされるなんて……!
近づいてみて、改めて思った。
デカすぎる。
今までのスライム──あのぷるぷるブルブルしてた可愛いやつとは、まったくの別物だ。
透明感ゼロ。まるでゼラチンに泥水と廃油をぶち込んで混ぜたような色味。
しかも、そこらへんの丘よりもでかい。いや、丘がスライムになったんじゃないかってくらいのサイズ感。
「……これ、生き物、だよな?」
「……さすがにちょっと、信じられませんわね……」
ベルの顔も引きつっていた。さっきからずっと引きつってるな、こいつは。
でも、俺にはある。
俺には──麻痺がある。
万能の神スキル。打てば動きは止まる。
たぶん。きっと。恐らくは。
「大丈夫……俺の右手がシビれてる。いける、信じろ……麻痺を!」
自分に言い聞かせるように呟きながら、俺はゆっくりと右手をスライムにかざした。
「パラ──」
唱えかけた、その瞬間だった。
ズブゥンッ!!
巨大スライムがいきなり沈み込んだかと思うと、ボヨンッと跳ね上がる!
影が落ちた。でけぇ!真上から落ちてくる!!
「っぶね!!!」
俺はとっさに横に飛びのいた。転がるように地面を滑って回避する。
──でも、隣にいたベルの姿が……ない。
ぼよんっ!
鈍く湿った音とともに、ベルは見事に、丸呑みされた。
「うおおおおおおいベルーーーー!!!?」
青緑に濁った体の中で、ベルの金髪が花火のように広がっている。
目を見開き、口を押さえ、スカートを気にしながらバタバタと暴れるベル。
……その姿を見た俺の第一印象は──
「うわぁ、あれだ。でっかいボールの中に入って転がって遊ぶやつ……ああ、ウォーターバルーン……」
……っていうか、これ中で呼吸できてるのか? やばくない!?頭をブンブン振って思考を切り替える。
「いやいやいや、今はそれどころじゃないな!!」
たぶんベルも、同じことを思っているだろう。
「はやく助けてくださいまし!!」ってな。
「ベル!今助けるからな!安心して暴れてろ!!」
右手を前に突き出し、叫ぶ。
「【パライズ】!!」
ちゃちい稲妻のようなものがスライムに命中。
──直後、スライムの体がぶるぶるぶるぶるっと震え出した。
「おお……!」
自分より遥かに巨大なやつが、自分のスキル一つで震えている。
腹の底から、興奮がこみ上げてくる。
っぱ麻痺だわっ!
っと、一人悦に入っていたが、それどころではなかった。スライムの中のベルが、震えに合わせて、少しずつ押し出されてきている!
なにこの仕組み!すごい、面白い!
「いけるいける!このまま吐き出せ!」
ぶるぶる、ぶるぶるぶるぶる――!
「でろーんって、思いっきりいけーー!」
スライムは震え続け──
ずぼっ!
「ヴぅッッ……!」
パライズの効果が切れたのか、スライムから上半身だけ飛び出たベル。
「べ、べ、ベルフィーナ=スライムだっ!!」
あまりの造形の美しさに、感動すら覚えそうになるが……それよりも、笑いがこみ上げてくる。ベルちゃんったら、もう、ずっと面白い。
そのまま、ベルがずるりと地面に這い出てきた。
「う、産まれた……!」
ぜぇぜぇと肩で息をしながら、ベルはぐったりとスライム汁にまみれて地面に寝転がっていた。
服も髪もぐしゃぐしゃ。見た目はお嬢様というより、今さっき釣り上げられたばかりの濡れネズミ。
「だ、だいじょうぶか……? ベル……!」
俺は頬の内側を噛み、笑いを必死に堪えながらベルを引きずる。
地面には、カタツムリの通ったような痕が伸びていった。
「……な、なんか、楽しそうじゃありませんでした!?!?」
息も絶え絶えに、涙目で震えるベルを見て、俺は心の中でそっと手を合わせた。
ごめん。でもギリギリ助かったから、セーフだよな? な?
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