124話 ハロウィン・ホラー・ナイト①
深夜零時を過ぎた頃――
草木も眠る真夜中に、ぼんやりと薄明かりが灯る。
当然誰もいないはずの街外れの農場に、ゆらりゆらりと動く影が……
俺たちだ。
どうやらつい先日この付近に、ハロウィンモンスターなる特殊なモンスターが現れたみたいで、俺たちはそこを狙いに来たという訳だ。
神出鬼没かつ、複数種類もいるハロウィンモンスターを討伐するには、目撃情報があった場所を地道に探すしかない。これは、長期戦の予感だ……
「……あっ、いた」
「ひいっ!」
全然撤回。どうやら、夜目の効くラヴィが早速何かを見つけたようだ。その声に驚いたのか、ベルは小さく跳ねた。いや、怖がり過ぎだって。
「……え、どこ?」
「ほら、あのあたり」
ラヴィがしきりに指差すが、目を細めて見てもいくつかのカカシしか見えない。
「……いや、分からん。 俺には、ただのカカシしか――」
ギギギィ――
俺がそう言いかけた所で、ただのカカシだと思っていたモノの、カボチャ頭だけがゆっくりと俺たちの方へ振り返った。
ギョロリッ――
カボチャ頭とガッツリ目が合う。
くりぬかれたカボチャの中――その目の部分には、炎のよう赤い瞳がぼんやりと浮かんでいる。
「ギャアァァァァァァッ――!!」
ベルの悲鳴が、こだます。
女性だとか、お嬢様だとか、そういう全てを捨て去った、野太き魂の叫び。
ギギィッ――ギギッ……
不気味に揺らめく赤い目が、いくつも闇に光る。
どこに隠れていたのか、その声に反応するかのようにワラワラとカカシが集まり出した……!
見た目はほぼカカシそのものだが、しっかりとその両足で歩いている。まあ、めっちゃ遅いけど。
「こいつは……《ジャックオーランタン》だな……! 全く、不気味な姿してやがるぜ」
そう、こいつはハロウィンモンスターの代表格で、ジャックオーランタンというモンスターだ。危険度は低くFランクだが、その数が厄介らしい。
「……数、多い」
実際、あっという間に取り囲まれて、やつらが歩く度にギシギシという耳障りな音が耳に響く。
夜中にカカシに襲われるなんて、想像しただけで相当なホラーだが、これは現実。そして対処法もある……!
「ベル! あいつら動きは遅い! セバスチャンで一気に片付けてやれっ!!」
「……」
「ベル? おい、ベル――ギャアァァァァァァッ!!」
そこには、腰まで伸びた金髪ツインテールが特徴の、顔面蒼白のオバケが仰向けに倒れていた。
いや違う、ベルだ。
「寝てる――いや、これは……気絶か……?」
とにかく、こちらの戦力は無事に一人減ってしまった訳だ。うん、大丈夫。想定内!
「【麻痺連鎖】!!」
バチチィッとカカシたちの間を稲妻が駆ける……!
ジャックオーランタンはカタカタと震えながら、次々に倒れていく。
「いくぞ、ラヴィ! 総攻撃だ!!」
「了解……!」
それからはもう、俺たちの――いや、俺とラヴィの独壇場。倒れたカカシをバキバキと壊していく様は、まるで悪質な畑泥棒。
ち、違うんです、オバケ退治してるだけなんですぅ……ってか。
そうして、ものの数分で全て撃破。
「……本当に、数が少し多いだけの敵だったな。 うん、楽勝楽勝」
「……手応え、ない」
ラヴィは不満そうだが、楽に倒せるに越したことはないからな!
どっちかって言うと一番厄介なのは、未だに寝転がってるコイツの面倒を見なきゃならんことのほうだ。
チラッと地面に目をやると、う~ん、う~んと小さくうなされているベル。これ、どうしようかな。
「ベル殿、起きて」
そう考えていると、ラヴィがベルの顔をペチペチと叩いた。容赦ないっすね……
「う~ん……はっ!? 敵は!? モンスターは!? オバケはどこですのっ!?」
目が覚めた途端シュバッと起き上がり、腰の引けたファイティングポーズをとりながら辺りを警戒するベル。
「おい、落ち着けって。 もう全部倒したから」
「ふえっ!? ほ、本当ですの……?」
「ああ。 お前がぶっ倒れてる、一瞬の間にやっつけちまったよ」
「うぅ、ご迷惑をおかけしました、ですの……」
ベルはそう言ってしおらしく頭を下げた。
いつもなら一言二言言い返して来そうなものだが、いやに素直だ。
「いや、こっちこそごめんな? まさか、気を失う程怖がりだとは思ってなかった」
「……こ、怖がってなんか! いえ、まあ、その……少しは驚きましたが……」
「少し? それにしちゃあ、ギャアァァッて叫んでたような気がするけどな」
「うん。 声、おっきかった」
「き、気のせいですわっ!! ほら、早く次の所に行きますわよ!!」
そう言ってベルはドレスの汚れを払い落とした。
えぇ、まだやるつもりなんですか……?さっきの件があるというのに……?
「ベル、今日のところは帰らないか? 怖いなら、本当に無理して付いてこなくても大丈夫なんだぞ?」
「拙者もそう思う。 オバケは、拙者の敵……だから、戦う。 ベル殿が、無理をする必要は、ないよ?」
うん、ラヴィがそこまで敵視するのは不思議だが、ベルの言うとおりだ。無理強い、ダメ、絶対。
「お二人とも……で、でも、大丈夫ですわっ! 貴族たるもの、オバケだなんだというものを怖がっていては、品位が疑われてしまいますわっ! さあ、行きますわよっ!!」
そう言ってベルは、夜の農場をずんずん進み出した。
なーんか、既に空回り気味ではあるけど……大丈夫かぁ?それに、今歩いてるそこは――
「ギャアァァァァァァッ!!」
ベルの野太い悲鳴が、こだます。
ついさっき俺たちが倒したジャックオーランタンの頭を見て、へなへなと座り込んでしまったベルお嬢様。
おい、品位はどうした、品位は。
こうして俺たちのハロウィンパーティーが始まった。
――そう、身の毛もよだつ恐怖の夜は、まだ始まったばかりなのだ。
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