123話 秋の終わりとハロウィーン
怒涛のモミジ狩りを終え、懐はほっかほかに温まった。しかし、そんな俺たちとは対称的に、街の雰囲気はどこか暗く、ずんと沈んだ空気が漂っていた。
露店の呼び込みもどこか静かで、秋の涼しさというより……どこか寂しい様な――
「……なあ、最近なんか街が暗くないか? 秋だからってだけじゃない気がするんだけど」
俺はたんぽぽ亭の食堂で遅めの朝食をとりながら、たまたま一緒になったベルになんとなく聞いてみた。
「えぇ? もしかしてマヒルさん、ハロウィンを知らないんですの?」
「は、ハロウィン? いや、名前位は知ってるけど……」
確か、あれだよな?十月三十一日に仮装をして街中を練り歩いて、お菓子をくれなきゃイタズラするっていうはた迷惑なあれだろ?
「で、街の雰囲気とハロウィンの何が関係あるんだ……?」
「だから、今はちょうどハロウィンの時期ですし、みんなが暗くなるのも仕方のないことですわ」
うーん、分からん。
今は十一月。ハロウィンって十月じゃなかった?
それに、なんでハロウィンだからみんな暗くなるっていう結論になるんだ……?なに、そんなにひどいイタズラされるってこと?
「それは、モンスターがたくさん現れるからだよ」
俺の困り顔を見かねたのか、頼んでいたポタージュを持ってきたミレナさんがそう呟いた。
ん?聞き間違い?今、モンスターがなんとかって言わなかった?
「モンスター、ですか?」
「そうだよ。 ハロウィンモンスターは毎年、悩みの種でねぇ……」
ハロウィンモンスター……?
どうやら、またもや俺の知っている日本のハロウィンとは違いそうだ。関わらないほうがいい気もするが――
「えと、ちなみにどういうモンスターなんですか? 参考までに」
「う~ん……一言で言うと、オバケ?かねぇ」
「オバケ……」
ミレナさんはそう言い残して、厨房へと戻っていった。そしてベルは、オバケという言葉で一瞬のうちに顔が曇っていった。
「……なんだよ、ベル。 オバケ怖いのか?」
「べっ!? べ、別に、こ、こ、怖くなんてっ!?」
声、上ずってる。目、泳いでる。
怖いんだろうなー。強がってるつもりなんだろうけど、顔は青いしツインテールも元気がなさげだ。
にしても、オバケか。オバケ型のモンスター?それともモンスター型のオバケ……?どちらにしても、関わりたくねぇー。
「ま、まさかマヒルさん、"ハロウィンパーティー"に参加する気じゃ、ありませんよね!?」
「なんだよ、それ」
「何って、ハロウィンモンスターを駆除するためのイベントですわ! ああ、考えるだけでも恐ろしいですわ……!」
「……もう、恐ろしいって言っちゃってるしな。 気にしなくても、そんなイベント参加する気は無ぇよ」
俺の言葉を聞いて、心底ホッとしたような表情のベル。どんだけ怖がってるんだよ……
「マヒル殿、ベル殿、おはよう……」
しばらくすると、ラヴィもやってきた。
ついさっき起きたようで、髪の毛はあっちこっちへ元気に跳ねまくっている。
「おう、おはようラヴィ」
「おはようございます、ですわ」
「ちょうど今、オバケの話でベルが怖がってたところだ」
「んなっ――!? そ、そんなことないですわ! それに、女の子はみんなオバケが怖いですわ! ですよね、ラヴィさん!」
「ううん、怖くない。 むしろ、敵」
焦りまくるベルに、ラヴィは淡々と言い放つ。
「ラヴィさん!?」
「……すげぇな」
オバケを異常に怖がるベルと、堂々と敵認定するラヴィ。いやはや、さすがの俺もオバケを敵視したことはなかったわ。さすがラヴィ。
「じゃあ、ラヴィはハロウィンパーティーに出たいのか?」
「ハロウィン……パーティー? なに、それ」
「……だってよ。 ベル、説明してあげたらどうだ?」
「え、い、いやですわ?」
即答。
さすがのベルでも、即答。
教えちゃったら、行かなくちゃぁいけないもんな?
「……どうして?」
「そ、それは……」
無邪気に首を傾げるラヴィ。
思わず目を背けるベル。
両者、一歩も譲らず――ラヴィが若干優勢かッ!?
「……拙者のこと、キライ?」
「はわっ――!?」
ベル、完全ノックアウト。
しきりに「そんなことないですわ!」とまくし立てながら、ハロウィンパーティーについてペラペラと喋り終えたベル。終えてしまったベル。
「ハロウィン、パーティー! 行く……!絶対に……!」
当然、キラキラと目を輝かせるラヴィに、"やっちまったぁ"という渋い顔をするベル。シワシワで、なんか年取ったブルドッグみたい。
まあ、ラヴィにここまで言われたら参加確定だろう。御愁傷様です。
ふんふん、なるほど。
今度のイベントは、ハロウィンパーティーか……!
うん、全然想像できねぇな!?オバケ退治?分からん!――よくは分からんが、今はベルの面白い顔を楽しむとしよう。
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