122話 秋と言えばのモミジ狩り
ドレイクとの戦いから数日。
日ごとに朝晩の冷え込みが強くなり、街の街路樹もカラフルに色付き始めた。
秋、到来。
俺が心臓麻痺で倒れた時が、確か四月位かな?
たんぽぽ亭の受付に飾ってある日付板で見ると、今は十月。
時間の流れが日本と同じなら、異世界に来て約半年が過ぎたという訳だ。
「あっという間だなぁ……」
秋という季節が、俺の物悲しさというか、エモさを司る部分を刺激したのか、今までのドタバタ冒険生活をしみじみと思い返そうとしていると――
「”モミジ狩り”に行きますわよ……!!」
ベルが威勢よく俺に話しかけて――いや、叫び散らかしてきた。
見れば、ベルもラヴィもしっかりと装備を整え準備万端。
まあ、季節を楽しむってのも大事なことだよな。ちょっと急過ぎる気はするけど。
「よし、行くか!」
俺は二つ返事で答えた。
紅葉狩り――つまり紅葉を目で見て楽しむというだけの行為に、二人がフル装備で準備していることをちっとも不思議に思わないまま、俺たちはたんぽぽ亭を後にした。
* * *
「キキキキキッ!! ピチキキキッ!!」
「マヒルさん! そっち行きましたわよ!」
「わぁってる! 言われなくとも見えてるよ、こんだけ”モミジ”が多ければなあっ……!!」
かくして俺は、街から程近い草原でモミジ狩りに奔走していた。
いや、こんなもの俺の知ってる紅葉狩りじゃねぇ……!!
この世界でいう所のモミジ狩りとは、秋の季節になると大群で移動する《モミジ》と呼ばれる鳥型のモンスターの討伐のことを指すのだという。
紅く、鮮やかな羽毛が高値で取引されることと、年々増えすぎて生態系に悪影響を及ぼすことから、冒険者ギルドとしても秋のイベントの一つとしてPRしているらしい。
「これだけちょこまかと動かれては、魔法があたりませんわっ!?」
「くっ、数が、多すぎる……!」
二人共、実に楽しそうにモミジ狩りをしているようだ。
ニワトリくらいのサイズで飛び回るモミジには、ベルの魔法は相性が悪く、ラヴィはラヴィであっちこっちで刀をブンブン振り回している。
違う、コンナノ、チガウ。
「――せよっ……秋の風情を、返せよっ……!! うわぁぁぁ、【麻痺連鎖】ッッッ!!」
「ピキチチィッ――!?」
俺の怒りの麻痺が炸裂。
飛び交うモミジを次々と稲妻エフェクトが駆け巡り、麻痺の連鎖が起こる。
バタバタと落ちていくモミジたちに、ベルとラヴィは容赦なくトドメ。
「さっすがマヒルさんですわ! その調子で、どんどん麻痺らせてくださいまし!」
「うん、お願い……!」
「う、うわぁぁぁぁっ――」
それから俺は、遮二無二麻痺らせまくった。
考えたら、負け。俺は何をしているのか?そう、これはモミジ狩りだ。
この世界では当たり前のこと――そうやって無理やり自分を説き伏せたが、心の中ではちょっぴり泣いた。そして――
「これは……すごい数を倒されましたね……」
馬車いっぱいのモミジを連れて、ギルドへ報告に戻った。
俺たちの成果に、受付嬢のセラ姐は普段のクールな顔つきから一変、目をまん丸くしている。
「これから後数回、モミジの飛来が予測されています。 これならモミジによる被害も少なくなりそうですね。 頼りにしていますよ、マヒルさん」
そう言って、さりげなく次のモミジ狩りの約束をこぎつけるセラ姐。
「いえっ!? いやぁ、もうモミジ狩りはこりごりっす……俺の思ってたのと違いましたし……」
「そうなんですか? 何を思っていたのか分かりませんが、今回だけでも数十万の報酬になりそうですのに、もったいない限りで――」
「モミジ狩りって、最高ですよね! 俺、秋って大好き」
「マヒルさん、明らかにお金が行動指針に直結してますわね」
「……うん、銭ゲバ」
二人ともなんか言ってるが、知らん。
そんなことより、俺はモミジ狩りのことで頭がいっぱいだ。
――っと思ったけど、銭ゲバ?ラヴィから銭ゲバって言葉が出たのも驚きだし、この世界にもこの言葉があるも驚きだ。ラヴィ語録、摩訶不思議。
それから俺たちは何度も何度も、モミジ狩りへ。
ベルの進化した【高貴なる咆哮】で全体を委縮させ、ベルに注目を集める。俺の【麻痺連鎖】で完全に動きを止め、そこへラヴィの広範囲複数体への高速斬撃【乱華】で一網打尽。
そんなこんなで、銭ゲバな俺は複数回にわたるモミジ狩りで大成功を収め、一か月の間に数百万ゴルドという大金を稼ぎあげた。
モミジが飛来した草原には、毎回のように高笑いと稲妻エフェクト、そして地面いっぱいのモミジの亡骸が散乱した。その様子を見ていた冒険者たちは、後にこう言った――”まるで、悪夢のようだった”と。
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