120話 ドレイク戦、決着
【麻痺銃】で狙撃し、ようやく地面に降り立ったドレイク二体との直接対決が始まる。
「まずは先手必勝、【パライズ】!!」
続け様に二発の【パライズ】を発射。稲妻エフェクトがほとばしり、まずは小型のドレイクが麻痺。
しかし、大型のドレイクは咄嗟に地面を蹴りあげ、巨体に似合わぬ俊敏さで回避。
「いきないさい!【サモン・セバスチャン】!!」
回避直後の隙を見逃さす、間髪入れずにベルの魔法が炸裂。頭の無い上半身だけの執事が現れ、ドレイクに猛攻をしかける――!!
相変わらず不気味な光景だ。
セバスチャンはドレイクの体に片腕でしがみつき、もう片方の腕でやたらめったら殴りつけている。恐怖。
さらに、小型のドレイクのほうはラヴィが一瞬で距離を詰め、その刀を胸元に深々と突き立てた。
「クオォォッ……」
弱々しい断末魔の声を上げ、ガクンと首が項垂れる。
残すは、一体。
「グオォッ!! グオォォォォォッ……!!」
「うお、なんだ!?」
セバスチャンの攻撃に怯んでいたドレイクが、急に轟音を響かせ威嚇するかのように大きく翼を広げた。
その瞬間、明らかに空気が変わった。
深緑色の瞳に、はち切れんばかりの血管が浮かび上がり、全身の筋肉が隆起する。口元からはメラメラと火の粉が散りつき、その熱で空気が揺らめいている。
このデカいドレイクが、この群れの母親だとすると、旦那さんと子どもをいっぺんに亡くしたって訳だ。
そりゃあ、ぶちギレるだろう。まさに鬼気迫る表情。
――だけど、俺たちだってやられる訳にはいかねぇっ!!
ドレイクが再び飛び立とうとした瞬間、地面を蹴ろうとする足目掛けて【麻痺銃】を放つ。グラリと巨体が傾き、追い討ちで【パライズ】。
「グオォォ……!? ググッグ――」
全身が細かく痙攣。しかし、その目には消えない闘志というか、執念のようなものが見てとれる。
そのあまりの気迫に、思わず足が震えた。
「ラヴィ、トドメを!!」
俺は恐怖を隠すように叫んだ。
「了解……!」
ザンッ――
一筋の赤い線が走る。
ラヴィの一撃はドレイクの喉を深々と切り裂いた。ドレイクはビクン、ビクンと数回跳ねたあと、完全に沈黙。決着だ。
俺は、無意識のうちにドレイクから目を背けていた。段々曇っていくドレイク瞳を、見ていられなかった。
「……ッ! はぁ、はぁ……。 ナイスだベル、ラヴィ……」
「や、やりましたわね……!」
「……うん。 大きいの、倒した……!」
二人はハイタッチを交わし、この勝利を心から喜んでいるようだ。
でも、俺の心の中はほんの少し複雑だった。
俺は冒険者として、クエストだからドレイクを倒しに来た。危険なモンスターがいるから、倒す。この世界では至って普通のことだ。
でも、結果として俺はドレイクの群れ――恐らく家族を殲滅し、その結果として報酬を得るんだ。
……今までだって、同じようなことをしていたはずなのにな。なんで、今日はこんなに考えてしまうんだろうか。
……それは恐らく、あのデカいドレイクのせいだ。俺はあの、ドレイクの目に――気迫に負けたんだ。
生きようとする、倒そうとする、鬼気迫る執念に気持ちで負けたんだ。
「……? マヒルさん、どうしましたの? 疲れちゃいました?」
一人浮かない顔をしている俺に気付いたベルが声をかけてくれた。
「マヒル殿、拙者がおんぶ、する?」
続いてラヴィも聞いてきた。
こいつらは、この感覚が当たり前の世界で生きてきたんだよな。ちくしょう、強ぇわ。
「……うん、大丈夫だよ」
自分でも驚く程、情けない声が出ていた。
よろよろと立ち上がると、ベルとラヴィが俺の腕を引っ張って無理矢理肩を組んだ。
「え? おい、何してん――」
「ほら、早く行きますわよ! 全く、ワタクシがいないと駄目なんですから」
「うん。 拙者がいないと、駄目なんだから」
「いや、別にそこまで疲れて――いや、うん。 ありがとう」
そう言いながら、俺たちは肩を揃えて三人で馬車へ向かう。これが、初めて受けるCランクのクエストの結果だ。
冒険者として高みを目指すには、まだまだ道のりは長く険しい。そんなことを痛感させられる戦いだった。
……それでも、このパーティーだったら。この仲間たちとなら、希望はある――そう思えた。
うん。まだまだ、俺も成長しないとな。
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