11話 リベンジ・オブ・ぷるぷる
――来た。来てしまった。ついにこの瞬間が。
「……スライム、ですわね」
ベルが静かに言った。
「スライム、だな」
俺も同じく、目を細めながら応える。
視線の先には、ぐにょぐにょと震えるゼリー状の生物が三体。そして――その奥、ちょっとした距離を置いて、明らかにサイズが異常な一体。
いや、余裕で人よりでかくね!? 下手したら小屋位あるわ!!
「でかくね?」
「でかいですわね」
息ピッタリか。
あんなデカブツに手を出す程俺は無謀ではない。とりあえず手前の小さいやつを倒していこうと、俺とベルはそろって前進。
再戦だ。リベンジマッチだ。スライムvs俺、第二ラウンドだ!!俺は目を細め、手を掲げる。スキル欄に輝く、唯一にして最凶のスキルを心で叫ぶ!
「【パライズ】!」
瞬間、スライムの体がぶるっ、ぶるぶるっ、ぶるぶるぶるぶるぶるっ!!
いいぞいいぞ、いい反応だ!ぶるぶるしてるぶるぶるしてる!興奮してきた!!
そこへ、棒を振りかぶって――
「喰らええええええッ!!」
どちゃっ!!
音がすごい。エグい。ねっとりしてる。心なしか、ベルが引いてる。やめて。
崩れたスライムの中から、ころんと転がり出たのは――ビー玉みたいな、青く光る粒。
「これが……試験にも出てた〔魔結晶〕ってやつか」
「そのようですわね。たしか、これを納品することで報酬が支払われる、と書かれていましたわ」
うむ、今朝の筆記試験で学んだ通りだ。
俺は魔結晶を拾い上げ、改めて小さくガッツポーズを決めた。麻痺、効くじゃん。やっぱ最高じゃん……!
俺は意気揚々と、残りのスライムに目をやる。仲間を殺された怒りからか、ぽよん、ぽよんと俺に近付いてきている。
「来るならこい、とことん痺れさせてやるぜ?」
俺はすっと右手を前に出す。
「【パライズ】!!」
瞬間、全身の挙動に不自由を覚える。これは――
「またかかかかかか……!!」
でた、使いすぎると起こる、術者の麻痺!いや、体感的には二分の一で発動しちゃってるんだけど!?
間抜けに痺れ、膝をついた俺に、スライムが――ぼんっ!
全身の体重を乗せた体当たりをかましてきた。俺は体勢を立て直す間もなく、情けなく転がった。
「いってぇ……!あのやろう……!」
俺の足は、ほんのちょっぴりすりきれていた。草っ原で転んでケガとか、小学生ぶり……!
「大丈夫ですかっ!?」
ベルが駆け寄ってきて、俺に両手をかざす。
「【ヤヤヒール】!」
彼女の手から淡い緑色の光が出て、俺の体を包む。なんだか、暖かいような、心地よいような気がする。多分。
「こ、これは……!……回復、してる?」
傷は傷のまま、ぶつけた所はじんじんと痛いまま。
「ヤヤヒールは、本人の治癒能力をちょっぴり上げますわ!その傷だって、一日も経てば綺麗に治りますわよ!」
ベルはふふん、とドヤ顔を決める。
いや、まぁじで使えねー。
俺は立ち上がると、ふと目の前にメッセージが現れているのに気付いた。
『スキル【麻痺耐性】を獲得』
【スキル:麻痺耐性】
効果:麻痺に対する完全耐性を得ます。
『スキル【ポイズン・パライズ】を獲得』
【スキル:ポイズン・パライズ Lv1】
効果:対象を10秒間毒状態にし、移動速度を低下させます。
MP消費:30
「これは……まさか、新スキル!?」
きた、主人公強化イベント!多分、自分で使った麻痺をくらってたから耐性ができたんだろう。アホらしいが、ありがたい!
それから、【ポイズン・パライズ】。麻痺毒ってところか。MP消費はでかいが、毒ダメージも入るなら十分なダメージリソースになるぞ!
俺はスキル獲得の勢いのままに、残ったスライムをどちゃどちゃとやっつけた。まあ、普通に考えて麻痺使うまでもなかったわ。
俺の狙いは、あの大物。ぼよんぼよんと呑気に跳ねているデカスライムだ!
「ベル!お前も来い!あのデカいの、ぶっ叩くぞ!」
「えぇ!?さすがに無謀すぎませんか!?」
少し離れた所で、引きつった顔をしているベルを扇動する。……ていうか、なに引いてやがるんだこいつ。
「こういう時はノリと勢いが一番だろ!俺の麻痺を信じろって!」
彼女は眉間にシワをよせ、すごく嫌そうな顔をしながらも俺の後をのっそりとついてきた。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
感想、ブクマ等いただけると励みになります。
次回もよろしくお願いしますm(_ _)m