117話 進め!恐怖の馬車登山
晴れてCランク冒険者となった俺たちだが、日々Dランクそこらのクエストをこなしながら、比較的穏やかな日常を過ごしていた。
け、決して楽をしたいからDランクのクエストを受けてるんじゃないぞ!?
なんでも、この街ではそもそもCランク以上のクエストは少ないらしい。
うーむ……平和と言えば聞こえはいいが、冒険者として満ち足りているかと聞かれれば、正直刺激が足りないかなぁという感じだ。まあ、この前のオメガゴーレムみいたな規格外なやつは簡便だけどな!
ラヴィも体力が有り余っているのか、クエストから帰ってきてもすぐにランニングに出かけているくらいだし……
まあ、あいつはそもそも体力オバケだから参考にはならんが。
そんな、やや不完全燃焼気味な毎日を過ごす俺たちだったが、遂にCランクのクエストがギルドに張り出された。俺は待ってましたとばかりに依頼書をもぎ取ると、意気揚々とクエストへ出発した。
ーーー
【討伐クエスト】
依頼内容:ドレイク三体の討伐(Cランク推奨)
目的地:アルクーン市外・北西の山岳地帯周辺
報酬:三万ゴルド
備考:山道の近くにドレイクの巣が確認されました。旅人への被害が出る前に至急対応求む。
ーーー
* * *
「マヒルさ~ん、まだ着かないんですの?」
「んー。 地図によると、あともう少しだとは思うけどな」
「ひぃぃ……ガタガタ道で、もうお尻が限界なんですけどぉ!?」
「おう、頑張れー」
俺たちは、ベルが操縦する馬車に乗って目的地まで向かっていた。
アルクーンの街から数時間。辺りの景色はガラリと変わり、山のふもとの荒れた道を延々と進む。
道っぽいところは一応あるけど、ほとんど舗装されていないため馬車は終始ガタガタと小刻みに震える。
「ちょ、なんだか他人事じゃありませんの!? 少しは何か手伝ってくださいまし!?」
「いや、本当に頑張れーって思ってるよ。 それに手伝うって言っても俺、操縦できないし。 なあ、ラヴィ?」
「うん、拙者も無理。 ベル殿、いつも凄い。 頑張れーって思う」
「ラヴィさん……。 フフッ、そうです、ワタクシは凄いのですわよ! こんな山道なんて、あっという間に駆け抜けてやりますわぁっ! ハイヤァッ!!」
ちょれー。
なんだかんだとぶつくさ文句言ってたのに、ラヴィの一言で気合入りまくってんな。
凄いとか言いつつ、実はラヴィがさっきまで寝てたっていうのは黙っとくか。
ベルの掛け声と巧みな手綱捌きで、馬車は大きく加速する。
悪路をものともせず、ぐんぐん景色を追い越して進み、車体の揺れは最高潮だ――!!
「お、おい、ベルさん? 法定速度超えてません?なあ、おいって!」
「ベル殿、凄い! 風が気持ち、いい……!」
「法定、なんですの? ワタクシにかかれば、こんな山道なんて朝飯前の寝起き前ですわぁっ!!」
居眠り運転じゃねえか。なんだよ寝起き前って。
猛スピードで進む馬車、ラヴィはアトラクションにでも乗っているかのようにキラキラした笑顔で身を乗り出している。
「おい、ラヴィ、危ないぞ? しっかり掴まってないと――」
「べ、ベル殿、もっと早くできる?」
聞いちゃいねぇ。
ラヴィは身を乗り出して、純真無垢な笑顔を惜しみなく振りまいている。
「フフフッ、もう少しだけなら出来ますわよ! ハイヤァッ!!」
いや何が「ハイヤァッ!!」だ!やめてくれっ!こんな山道で事故ったらシャレにならんぞ!?ラヴィも楽しそうにすんな!それに――
「あ、ベル、もう着いてるぞ」
「ハイヤッ!?」
俺の一言に、ベルは妙な掛け声を出しながら手綱を引き、急ブレーキをかけた!
馬は何事かといななき、車体が大きく揺れる――!
瞬間――
俺の目の前を小さな影が横切り、ポーンと馬を通り越して飛んでいく。ラヴィだ。
ラヴィは無表情のままくるくると空中で回転ながらも、なんとか着地姿勢を取ろうとしている。
うん、さすがの運動神経だ!
しかし無残、結果は着地に失敗し、ゴロゴロ転がっていく!
「ら、ラヴィさんっ!?」
「あいつ……!! だから掴まってろって言ったのに! おい、大丈夫か!?」
瞬間――
ゴゥッという風が鳴いた。
俺たちの真上を大きな影が通過し、激しい風圧に思わず目を閉じた。
「なっ……!?」
俺たちは声を上げる間もなく、ソイツはラヴィの元へと一直線に向かう。そして一際大きく羽ばたくと、ラヴィをガッシリ掴み、空に飛び立った――!
「むっ……? なに、これ」
大きな爪に掴まれながらも、ラヴィは意外と平気そうにしている。
とりあえずさっきのぶっ飛びで大きな怪我はないようだが、それよりも遥かにやべぇ状況だ……!
馬車の荷台よりもデカい黄土色の体。
全身びっしりと細かい鱗に覆われ、たくましい翼と尻尾が見える。まさか、こいつが――
「ど、《ドレイク》ですわっ!! ラヴィさんがドレイクにさらわれましたわっ!?」
「ラヴィ! 今いくぞっ!! ちょっと待ってろ!!」
うちの箱入り娘を取り戻すべく、馬車は猛スピードでドレイクの後を追った。
その時のベルの顔と言ったらもう、鬼のような形相で気迫を放ち、俺にはどっちがモンスターか分からないくらいの圧を感じた。
待ってろよ、ラヴィ……!!
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