116話 ベルちゃん成長譚②
迫りくる一体のリザードマン。
対するは、余裕の笑みを浮かべる我らがベルフィーナ嬢。さっきまで泣きべそかいて逃げ回っていた姿はなんだったの?幻?
「お~っほっほっほ! さあ、哀れなトカゲちゃん? ワタクシの驚異の魔法にひれ伏すが良いですわっ!」
うん、さっきまで泣いてたやつが言うセリフじゃねえ。
ベルはそう言うと、自身の魔導書であるグリム・ド・ベルをリザードマンへビシッと向けた。
おお、なんかかっこいいぞ、ベル!
「轟けですわ!【高貴なる咆哮】! お~っほっほっほ!」
で、出た!ベルの必殺魔法、【高貴なる咆哮】だ!あの高笑いを聞いた敵は、萎縮してしまうという恐ろしい魔法だッ!!
「――っておい!! お前、いつもの高笑いするだけの魔法じゃねえかっ!!」
「フフン、どうかしらね?」
「なっ……」
何故だ?何故、ベルはあんなに余裕そうなんだ?
さっきの魔法だって、そもそも魔法と呼べるかも怪しい代物だし、敵を"ちょっと萎縮させる"っていうしょっぱい効果しかないはずだ……!
「……! マヒル殿、あれ!」
「どうしたラヴィ! って、リザードマンの動きが……止まった?」
なんだろう、さっきまでバタバタと走り迫っていたリザードマンは、ピタッと足を止めてその場に棒立ち。おまけにベルのことをジッと見つめている……?
「おい、どうしたんだベル! なんか、見てるぞあいつ!」
「お~っほっほっほ! これこそが、進化したワタクシの魔法ですわ! 萎縮させる効果はそのままに、ワタクシの華麗な姿を注視するようになったのですわ!」
はい、終わりです。
解散解散。なんだよ、注視させるって。
要するに、ベルに標的が向くってことだろ?防御力のある重装兵な訳でもないのに。ダメじゃん。ダメじゃん……!
「おい、ラヴィ!帰るぞ! もう、あんなやつ知らん!」
「……待って、マヒル殿。 なんだか、不思議な感じ。 気持ちが、フンフンする……!」
「お、おい、ラヴィ? お前までおかしくなっちまったのか? フンフンするって何――」
「それこそが……! ワタクシの魔法の更なる力、ですわ! なんとワタクシの【高貴なる咆哮】には、仲間の士気を上げる効果がついたのですわ!」
ベルはまるで勝ち誇ったかのように、大袈裟に間を取りながら説明する。普通に話せ、普通に。
つまり、バフ効果がついたってことか。効果がどれくらいのものか分からんが、明確にハズレ魔法ではなくなったという訳か。
「さらに続けていきますわ! 久し振りの視線をあなたに!【冷厳なる微笑】!!」
そう言うとベルは、世にも冷たい、心の底から蔑むような視線をリザードマンへ送った。
で?
「おい、俺も忘れかけてたぞ、その魔法! 確か、えぇ~っと……」
「この魔法を受けた相手は、いたたまれない気持ちになる、ですわ!」
あぁ、そうそう。そうだったわ。聞いてるこっちがいたたまれない気持ちになる、明確なハズレ魔法だったわ。んで、ここでこの魔法を使ったということは、付随効果が付いたってことかな?
「それで、どんな効果があるんだ? なるべくサッサと教えてくれい!」
「なっ、なんだかカチンときますわね!? まあ、いいですわ。 ワタクシの視線を受けた相手は、物理と魔法に対する防御力が低下しますわ!!」
「……へぇ――ってマジか! それはちょこっと凄いかもだな!」
「ベル殿、器用! 何でも屋さん!」
「フフン、そうでしょうそうでしょう! もっと褒めてもいいんでしてよ?」
ベルときたら、もう、すっごく嬉しそうにしている。満面の笑みってやつだ。
まあ、そのせいで大事なことを忘れているんだけどな。
「それで、ベルよ。 あいつをどうやって倒すんだ?」
ベルの背後から、バタバタと近付く影。
……得意気になりすぎて、モンスターから完全に目を離しちゃってるよこの子。
「へ? って、きゃあぁぁぁ!」
「キシャアァァァ!」
「【パライズ】」
俺は準備していた【パライズ】を当然のように放つ。だって、こうなる未来しか見えなかったもの。
リザードマンは見事に麻痺って、走ってきた勢いをそのままに――
「はぶんっ!?」
ベルに突撃。
ごめん、そこまでは考えてなかったわ。
「い、いやぁぁ! とってですわ!どけてですわ!は、早くぅ!!」
「……ラヴィ、助けてあげなさい」
「了解」
ベルの上にのしかかるようにして痙攣するリザードマンを、ラヴィが一撃の元に両断した。
ゴロリと転がるトカゲの生首に、ベルが小さく「ひいっ」と息を呑む声が聞こえた。
今回のクエストで倒したリザードマンは、十三体。クエスト目標である五体を大きく越えた成果だ。
しかも、その全てをラヴィが倒したというのは本当に頼もしい限りだ。
――しかし、その代償はあまりにもでかかった。俺は、敵の返り血で汚れきったケモミミ娘と、爬虫類臭い金髪ツインテールを街まで送り届けなければならかった。
ああ、ほらもう、皆の視線が痛い。俺なーんにも悪いことしてないのにね。
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