115話 ベルちゃん成長譚①
「クエストいきますわよ!クエスト!」
まだ朝の日射しが優しい、穏やかな一時。俺の部屋に転がり込んできたベルがやかましく喋り出した。
まだまだ寝ぼけ眼の俺には、キンキンと頭に響く。
「……おま、はあ? 朝の七時だぞ?良い子はまだ寝てる時間なんで」
「何を訳の分からないことを言ってるんですの! ほら、ラヴィさんも準備万端ですわよ?」
そう言ってベルは、無理矢理連れてきたであろうラヴィの手をぐいっと引っ張る。
美しい銀髪は寝起きを伺わせるボサボサ加減。特注のヘルムなんか、完全に逆を向いていて顔が見えない。
「お前……ラヴィを無理矢理――」
「ま、まあまあ! とにかくワタクシたちは準備できてることですし、早速行きますわよ! クエスト!」
「はぁ……」
俺はため息と共に、ボリボリと頭を掻いた。
こうなったら言っても聞かないんだろうなー。俺は重たい腰を上げ、渋々支度を始めた。
ベルがこんなにやる気ある時は、どうせろくでもないことが起きるんだよ。絶対に。
* * *
「嫌ぁぁぁぁ! 助けてぇぇ!!ですわぁぁ!!!」
「あいつ……毎度毎度何やってんだか」
何やら新しく魔法を覚えたらしく、すぐさま俺たちにお披露目したかったようだ。
まあ、当の本人は今の群れに追われまくっていてそれどころじゃないだろうが。
「ま、マヒルさん!! 麻痺を!麻痺をぉっ!!」
「キシャシャアッ!!」
十体以上はいるであろう《リザードマン》は、小さくも鋭利な爪をブンブン振りながらベルに迫る。
「はいはーい、もうちょっと寄って~。 うん、いいねいいね。 はーい、いくよ~。 せーのっ【麻痺連鎖】」
俺の手から放たれたエフェクトはバシィッ、バシィッ、とリザードマンを巡り、つたい、ほとばしる麻痺の連鎖を生み出した。
「ギ……ギギギギキシャアッ――」
バタバタとドミノ倒しのように崩れていくリザードマンたち。ラヴィは即座に刀を構えると、音もなくそこへ飛び込んだ。
「はぁっ……!」
目まぐるしい斬撃の嵐。一瞬ラヴィの姿が見えたかと思うと砂煙と共にすぐに消え、即座に次の敵を切り捨てる。バサバサと赤い飛沫が飛ぶ様は、まさに圧巻。
「強っ……強ぉぉ……」
「ら、ラヴィさん、あんなスキル持ってましたの……?」
「ふう……一丁、上がり」
刀についた血や粘液、細かい鱗をバサッと振り落として鞘に納めるラヴィ。その顔は、実に満足気だ。
「ラヴィ、すげぇな今の。 新しいスキルか?」
「うん。 連続で、斬り続ける技。その名も……【乱華】」
乱れる……華……ッ!?
いい、いいぞ!、めちゃくちゃ痺れるネーミングだな!
「へぇ、いつの間にそんなスキルを……。 かっこよかったぞ、ラヴィ!」
「えへへっ……」
ラヴィは嬉しそうに微笑んでいる。
返り血の量が尋常じゃないけど。
「さて、ラヴィの新スキルのお披露目も終わったことだし帰りますか!」
「はい、帰りましょうって違ぁぁう! 違う違う、そうじゃないですわっ!?」
ベルはそう言いながら、ブンブンとツインテールを振り回して向かってきた。雑じゃない?自分の髪の毛なのに。
「なんだよ、ベル。 ラヴィの凄いスキルも見れたことだし、今日はもう帰ろうぜ?」
「目的が! 違いますわっ!! 今日は、ワタクシの凄い凄い魔法をお見せする為に来たんですのっ!!」
「……だってお前、リザードマンと追いかけっこして遊んでたじゃん」
「違いますわぁっ!? あれは、思ったよりも数がいて、ちょっと驚いて声を上げたらあっという間に……」
うん。一部始終見てたから分かるけど、勝手に突っ込んでたくさんおびき寄せて、めっちゃ逃げて来てたもんな?下手したら俺たちも危ないところだ。
「……帰らないの?」
「ん、そうだな、ベルちゃんが何か見せたいそうだから、それを見てから帰ろうか」
「なんか子ども扱いしてませんことっ!?」
「してないしてない。 あ、ほら見てみろよ。 ちょうど一体だけ残ってるぞ?」
群れの最後の生き残りなのか、リザードマンが一体。ネズミか何かを見つけたのか、じいっと地面を見つめている。
……あの様子だと、他の仲間がどうなったかも気付いてないらしい。お気楽なこった。
「いいですわ! 今こそ、ワタクシの真なる力を発揮する時! 高貴なる姿、その目にしかと焼き付けるが良いですわっ!」
ベルの大声に気付いて、リザードマンはわたわたとこっちに向かってくる。ちょっとかわいいけど、人に危害を加えるからなぁ……討伐もやむ無し、だ。
……まあ、ベルに倒せるのなら、だけどな。
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