110話 完成、異世界カレー!
「でき……たぁっ……!」
なんだかんだと煮込み続けること数時間。よく煮込まれ、様々な具材がどろっどろに溶け合ったカレーが完成した。
口に含むと、ハナツマミの強烈で食欲をそそる香り、アマドロンゴや野菜の甘み、数種類もの肉の旨味が広がる。そこに百味草の風味と辛さが加わり、バランスを整えた上で味のレベルを数段上げている。
それから、ほんの気の迷いで入れてみた隠し味――
先のゴーレムとの激闘で大量にゲットした物を入れてみたら、素人でも分かる程格段に味のグレードが上がった。
「ウマイッッ!!!」
俺は叫んだ。そこそこの声量で叫んだ。
昇り始めた朝日が地平線のかなたから、カレー臭の染み付いた俺を照らす。マジ主人公って感じ……!
「……おはようございます、ですわ」
「うおっ!? 悪ぃ、お越しちまったか?」
「……いいえ、その……少し前から起きてましたわよ。 それにしても、遂に完成したんですわね」
ベルはそう言って、穏やかに微笑んだ。おいおい、朝日に照らされた笑顔が眩しいぜ。
……ん?ていうか――
「ベルぅ、お前なんかやつれてないか?」
「へぇっ!? な、なんでですの?」
「だってほら、うっすらくまもできてるし。 もしかして、あんま寝れなかったか?」
「だ、だって、マヒルさんだけ起きて……その……」
ベルは顔を赤くしながらボソボソと小さく呟いた。
なに?まじでどうしたの?
「……なんだよ。 寝れないんなら、子守り歌でも歌ってやろうか?」
「……っ!! そ、そんなもの必要ありませんわ! わ、ワタクシはもう寝ますっ! おやすみなさいっ、ですわ!」
冗談っぽく言ったつもりが……何かちょっと怒ってる?うーん、分っかんね。
「……ってか、寝ますってもう朝なんだけど……。 まあ、いいや。俺も寝グゥ――」
カレーが完成した達成感を越え、疲労が波のように押し寄せる。抗う間もなく、俺の意識は一瞬で溶けていった。
ただ、ぼんやりと……ベルの「おやすみなさい」って優しい声が聞こえた気がしたけど、夢かどうかも分からない。今はただ――
* * *
「んがっ――!? あれ、ここは……?」
目が覚めると、見慣れた天井があった。固い感触のベッドに、ゴワっとしたシーツ。あれ、ここたんぽぽ亭の俺の部屋じゃん。さっきまで外でカレー作りを――
「は? えっ?何?もしかして満フェスとかグルバトとかって……夢?」
「……夢、じゃないよ」
「うおっ!? ラヴィ!?」
俺の部屋の傍ら、窓際の椅子にちょこんと腰掛けたラヴィが足をパタパタ揺らしている。可愛い。
「なんで? どういうことだ?」
「拙者とラヴィ殿で、連れてきた。 カレーが完成したって聞いて、片付けて、マヒル殿を部屋まで連れてきた」
「まじか! ごめんな、色々させちまって」
「ううん。マヒル殿、朝までずっと、頑張ってたんでしょ?お疲れ、さま」
ラヴィはペコッと小さく頭を下げて微笑んだ。可愛い。
「っていうか、なんで朝までカレー作ってたの知ってるんだ?」
「……ベル殿が。『疲れてるでしょうから、たんぽぽ亭で休ませてあげよう』って、拙者に言ってきて」
「へぇ……」
まじかよベル。優しいとこあんじゃん。
なんかちょっと、うるっときたわ。
「それで、ベルは?」
「今、部屋で爆睡中。 叩いても、起きなかった」
「ああ、そう……」
うるっときたのがスッと引っ込んだ。うん、やっぱりベルはこうじゃないとな。
……にしても、叩いてあげるなよ。
「よし、ベルはこのまま寝かせといてやるとして、ひとまずセラ姐に報告だ!カレーの完成を祝ってな……!」
「了解」
俺とラヴィは、急ぎ冒険者ギルドへ向かった。
セラ姐はいつも通り忙しそうにしていたけど、俺たちを見ると、ヒラッと手を振ってから両手で「ちょっと待ってて」というようなジェスチャーを取る。
……異世界にもあるんだな、こういうの。
しばらく待っているとセラ姐は、額にうっすら汗を浮かべながら小走りでやってきた。普段からキッチリ分けている髪は、所々ビョンビョンはねて、目の下には相変わらずのくまが。
「ふぅ、ごめんなさい、お待たせしました」
「いえいえ、忙しい時にすみません。 まあ、そんなことより、出来ましたよ!カレー!」
「へえっ!? ううんっ……ほ、本当ですか、マヒルさん。 あの食材たちを……?」
セラ姐は驚きのあまり声が裏返ってしまった。
ふっふっふ、無理もない。自分でも、素人の俺が作ったとは思えない程の出来に驚いているんだからな。
「……でも、あなたがわざわざ言いに来るということは、本当に完成したんでしょうね」
「もっちろんです! きっとセラ姐も驚くと思いますよ!」
「ええ、そうでしょうね――って、セラ姐?」
あやっべ。口が滑った。
俺が普段、セラ姐って呼んでることバレちゃったんじゃ――あぁ、眉間にシワが!バレてます、完全に!
「……フフッ」
「へっ?」
「もう、好きに呼んでください。 ここまで色々とご協力いただいているんですから」
「え、あ、ありがとうございます……?」
なんか、拍子抜け。
セラ姐は相変わらずため息こそついているけど、それは決してマイナスな感じではなくて、なんだろう……信頼?みたいなものを感じた。
「フフッ。 それでは、今夜食べに行かせてもらいますね」
「……! はい!いつもの場所で、最高のカレー作って待ってますね!」
そう言い残し、俺たちは急いでギルドを後にした。帰ったらすぐに支度しないとな……!
正直疲労はピークを越え続けてるけど、なんだろう、ワクワク感が止まらない。グルバトまで後二日……最後の仕上げにかかるぜ!
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