109話 襲来、グレーターデーモン
グルバトまで残り三日。罰ゲームみたいな食材を使って、起死回生のカレーを作ると決めた俺たちは連日野営して、朝は食料集め、夜は試作品作りに奔走していた。
何しろ試作品の数が多いから、食材はいくらあっても困らない。そんなこんなで俺たちは、今日も今日とて草原を駆け回る――!
「いったぞ、ラヴィ!」
「了解! ふんっ……!」
ラヴィの神速の居合い切り、羅刹が炸裂。散々逃げ回っていたホーンラビットの頭がスパンとはねる。今日は、ウサギカレーだ……!
……今日もカレーかぁ。
日が暮れる頃には無事解体も終わり、早速カレー作り。料理が得意じゃない俺でも、毎日毎日、何度も何度も作っていればさすがに慣れた。三十分程で今夜の試作第一号の完成だ。
こっちの世界では今のところ米を見てないから、ナンの変わりにパンでいただくスタイルだ。俺は断然米派なんだけどなぁ……
「うーん……少し淡白過ぎる、かしら」
仕事を終えてやって来たセラ姐は、カレーを一口食べてそう呟いた。彼女は忙しいギルドの仕事をこなしつつ、時間を見つけては様々な調味料や材料の調達をしてくれている。
そして夜になると必ず試作品を食べてくれる。よほど忙しいのか、目の下にはドス黒いくまができていたけど言及しないでおこう。目付きの悪いパンダみたい。
「そうですわね……これなら、前回の《コッコ》カレーのほうが良いですわ!」
ベルがうーんと首をかしげながら言った。コッコというのは、もう、見たまんまニワトリ型のモンスターだ。
「うん。物足りない、かも」
「まじかぁ~……ウサギ肉、面白いと思ったんだけどなぁ……」
俺は何カレーにするかという強大な壁にぶつかっていた。ひとえにカレーといっても種類は様々。考えつく限り、ビーフ、ポーク、チキンと試しているが最高の答えには辿り着けていない。
カレー作るのも小学生以来の俺からしたら、ベストな組み合わせを考えるのなんて無理ゲーすぎる。カレー作り、奥が深すぎるってぇ……
「他に試してないのは……ヒツジとか、カエルとか……?」
「「カエルぅ!?」」
ベルとセラ姐がハモる。
「な、なんてことを言うんですの!? カエルを使ったカレーなんて聞いたこととありませんわ!!」
「いや、そもそもお前カレーっていう料理知らなかっただろ」
セラ姐はハァとため息一つ、眉間にシワをよせる。
「マヒルさん、さすがにそんな奇抜な料理作るのでしたら、帰りますよ?」
「"カエル"だけにってことですか?」
「なっ、違っ……!」
セラ姐の寒ぅいダジャレに風邪を引きそうになりながらも、俺はぼんやりと考える。
一体何を使えばいいんだろうか。異世界カレーとか言ってみたはいいものの、全然だめだ。
「全部」
ラヴィが呟く。
「ん……?」
「拙者の村では、余った肉、野菜……色んな食材、全部入れて煮込む料理、ある。手間はかかるけど、すっごく美味しい」
「フフッ、なんだよその豪快料理。 ……でも、悪くねぇかもな」
全部、ぶちこむ。
実に単純明快、シンプルさの極みだ。でも、悪くない。それどころか、むしろ良い……!
俺の疲弊しきった料理人魂に、再び熱い火が灯るのを感じた。いけ、マヒル!心のコンロに火をつけろ……!
「……よっしゃ! 俺は今までの食材使って試作品作るわ! お前たちは、先に休んでてくれ」
「……でも、マヒルさん、いつも夜遅くまでカレー作ってるじゃないですの? ゾンビみたいな顔しながら」
「ゾンビは余計だっつうの。 いいんだよ、俺はバトルで体力使ってない分、こっちで頑張らないとだから。 セラーナさんも早いとこ――セラ姐……?」
セラ姐はぼんやり虚空を見つめたまま、微動だにしない。スプーンをすくったまま、まるで時が止まったかのように――
「……セラーナさん?もしかして――」
「目を開けたまま、寝てますの……?」
「すごい。器用」
遂に限界を迎えたのだろう。ただでさえギルドの仕事は忙しいはずだ。朝早くから夜遅くまで働いて、食材調達やカレーの試食まで……本当にお疲れさまです。
……とはいえ、このまま外に置いとくのはさすがにだめだよな。
「ベル、ラヴィ。 こちらのお方を丁重に運んでさしあけげなさい」
「な、なんですのその喋り方は。 とりあえず行ってきますけど、マヒルさんは本当に大丈夫ですの?」
セラ姐を肩にかつぎながら、ベルとラヴィは心配そうに俺を見つめる。
「大丈夫だって! なんでそんなに心配してんだよ」
「……だって、目の下にドス黒いくまができてますわよ? まるでやる気のない《グレーターデーモン》みたいですわよ」
「誰だよソイツ」
どうやら俺は、知らないうちにグレーターデーモンになっていたらしい。まじで誰だよ。
っていうか俺もくまができてたのか。でも、今は不思議と疲れを感じない。これが、カレーハイってやつか……!そんなもんがあるのか知らんけど。さあ、作るとしますか……!最高に痺れるカレーを……!
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