107話 意外となんとかならんかもって
「さて……今日はもう帰ろうかな」
グルバトまで後一週間。三つのランダム食材のうち、賑やかし要員で含まれているというハズレ食材を、三つとも全て引き当ててしまった俺たち。
気分はもう、酒場で一杯やろうって感じ。
「で、でも、まだ始まった訳ではないですし! ハズレ食材だからって、絶対に負けるなんてことはないですわよね、セラーナさん!」
「……いえ、絶対に負けます。 過去の統計では」
「え、えぇ? そうなんですの……? でもでも、何とか工夫をすれば、可能性は……なくは、ないような気も……しなくもないような……」
励ますつもりのベルだったが、セラ姐の一言で心折れてしまったようだ。どんどん声は小さくなるし、言ってることもフワッとしている。
「……まあ、決まったもんは仕方ない。 とりあえず、その食材がどんなもんなのか見て、食べる!話はそれからだ!」
「マヒルさん……」
「そんな心配そうな顔しないでくださいよセラーナさん! 実際、俺食べたことないですし、食べてないのにハズレだなんて決めつけるのも良くないですからね!」
「ふふ、珍しく良いこと言うじゃないですの?」
セラ姐は相変わらず顔色が悪いままだか、ほんの少しだけ微笑んでくれた。しょうがねえ、セラ姐の笑顔……取り戻しにいくとしますか……!!
* * *
「あ、これはハズレだわ」
「即答ですの!?」
冒険者ギルドを後にした俺たちは、いつまでもたんぽぽ亭の荷物運びをしていたラヴィを引き連れ、満フェス実行委員会の仮設テントへ向かった。
そこで例の食材を分けてもらい、目の前にあるもの見て改めて思う。こりゃあハズレだわ、と。
「だってもう、主張強すぎるってこいつら。 素人が手を出していいやつじゃないと思うんだ」
まず一際存在感を放つのは、ハナツマミ。キッチリ瓶詰めされていながらも強烈な香りを放ち、これ以上近付きたくない。禍々しいオーラすら感じる。
見た目は何かの球根のような……タマネギとニンニクの親戚みたいだが、匂いはその比じゃない。
そして、アマドロンゴ。その名の通り熟すと中身がドロドロになるようで、自重すら支えられずに皿の上にのっぺりくつろいでいる。リンゴっぽい色合いだが、見た目だけで言うと最早ただの赤いスライムだ。
最後に、百味草。見た目は数センチにも満たない小さい木の実だが、問題なのはその色だ。カラフル。虹色。ショッキングレインボー。子どもがクレヨンで虹を書いたものを想像してほしい。そのまんまの色が、ここにある。
「……でも、食べてみないと、分からないこともある」
「……それもそうだな。 ラヴィ、任せた」
「拙者!?」
「あったりまえだろ。 言い出しっぺが先陣きらねえと。ほれ、このハナツマミから、パクッといったれ」
「うぅ……」
泣きそうな顔してこっち見てもだめ。俺だってそんなもん食いたくないもん。
こういう時ベルなら「ラヴィちゃんになんてことを!」とか言いそうなもんだがそれを言わないってことは……あいつも食べたくないってことだろうな。ほら、どっか向いてるし。
「ぐっ、うぅ……いただき、ます」
ラヴィは涙を目いっぱいに浮かべ、鼻をぐっとつまんだまま、ゆっくり……それはもうゆっくりとハナツマミを口に近付ける。
なんか、見てはいけないものを見ているような――
……こ、これは決して嫌がる女子に無理矢理何かを食べさせる的な、そういうことじゃないからな!?
「……あぁ、むっ……!」
「おっ、食べた! どうだ、ラヴィ大丈夫――」
「にゃあぁぁぁぁぁぁっ――!!!」
どうやら大丈夫じゃなかったらしい。
狼の獣人が猫みたいな鳴き声をあげ、ジタバタとのたうちまわっている。うわぁ、かわいそう。
「ん、んん! む、むぅっ……!」
「ら、ラヴィさん! 無理しないで、ペッするんですわ!ペッ!」
「ん、んん…………んべぇっ――!!」
「キャアァァァァっ!!! 何か、何かよくないものが出てきましたわ!?!? マヒルさん、絶対にこっち見ないでくださいましっ!!!」
大丈夫。俺、すぐに後ろ向いたから。
ラヴィの喉から何かせりあがってくる音が聞こえたから、すぐに後ろ向いたから。
うん、ラヴィは全然大丈夫じゃないだろうけどな。
……なんか本当に、ごめんね。やっぱ俺、それ食いたくねぇわ。
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