104話 セラ姐の切なる願い
「……それで、その”満フェス”とやらの……激闘・グルメバトルでしたっけ?それの何をやればいいんでしょうか」
半ば呆れながらも、一応尋ねる。明らかに意味不明なワードの連発、ここまで訳が分からないと逆に興味が湧いてくる。
「お~ほっほっほっほ! それでしたら、ワタクシから説明いたしますわ!」
ドンッと椅子から立ち上がり、小さな部屋に高笑いを響かせるベル。
うるさい、座りなさい。
「満フェス、それは美味で未知なる味を求める究極の食の祭典……! さらにその中の、”グルバト”は大目玉のイベントなのですわ!」
「グルバトて……それで、その大目玉のイベントで何をするんだよ」
「ふっふっふ、それは勿論バトルと料理の腕を競い合うのですわ!」
「はあ」
どこのグルメマンガだよ。
「当日までにモンスターを倒して食料調達、しかもランダムに選ばれた食材を必ず使わないといけないという、運要素も絡みます! まさに力、技、知識、運の絡む――」
「分かった、分かったって! ありがとうもう十分だ!」
ええ、辞退するのに十分な情報をありがとう。
つまり、モンスターと戦って解体して、そこにプラスして謎の食材を加えた謎の料理を仕上げるってことだろ?無理無理、俺には難易度高すぎる。
「えぇと、セラーナさん。せっかくなんですけど、この話は――」
「百万ゴルド」
「……なん、ですと?」
聞き間違い……じゃないよな?
何か今、耳に優しい言葉が聞こえた気がしたんだが。
「優勝チームには、百万ゴルドの賞金と副賞がでます。協力していただけたなら、全員で山分けできるのですが、いえ、無理にとは――」
「やりましょうとも。セラーナさんが困っているんだから、当然です」
秘儀、手の平返し……!俺はもう、手首が引きちぎれんばかりに手の平を返した!
全く、セラ姐も人が悪い。そんな賞金が出るんだったら、最初から言ってくれればいいのに。まあ、
そんな賞金がでなくともきっと参加していたけどな!多分。いつかは。
「……でも、なんでそんなことをセラーナさんがお願いしてくるんですか? 冒険者とかあんまり関係なさそうなイベントみたいですけど」
俺の言葉にセラ姐はクッと息を呑む。
「……確かに冒険者向けというより、飲食業をやっているものや、ギルド同士の腕試し……あるいはステータスのような側面が大きいんです。 なので、このイベントでまともな成績を残せたことのない我が冒険者ギルドは、上層部よりお叱りを受けまして」
「……冒険者に料理の腕を求めんなよ……」
「先日も『なんとしてでも、入賞を果たせ』とのお言葉をいただいた次第で……」
セラ姐はそう言って深くため息をついた。
グルバト優勝の称号の何がそこまで大事なのか分からないが、言ってしまえばお偉いさんのエゴ、面子のために下のもんを叱責してるってことだよな。それでセラ姐は困っていると――
うん、なんとなく嫌~な気分になるな。しょうがねえなあ。
「そんな話を聞かされたら、俄然協力する気になるってもんですよ。 ベル、ラヴィ、いいよな?ってお前たちはもとからやる気満々だったな」
「あったり前ですわ! まさか、このイベントに参加できるなんて夢のようですわ……!」
「うん、拙者、いっぱい食べる……!」
ラヴィは趣旨を理解してるのかね?俺たちは作る側だって言ってるのに。
「マヒルさん!それからお二人共、本当にありがとうございます! 今回も、どうしたものかと頭を痛めていたところでして」
「そんなに難しいイベントなんですか?そのグルバトってやつは」
「えぇ、まあ……というより、そのぉ……お料理とか、全然したことない……っていうか、全然できなくて」
セラ姐はそう言うと、ほんのり頬を赤らめた。普段はクールで冷たくて時に俺を蔑む視線を送る彼女は、珍しく恥じらいを見せた瞬間だった。
俺はきっと、この時のことを忘れないだろう。
「ま、まあ、料理できなくともね!人には向き、不向きがありますし。 っていか、俺も料理には詳しくないんですけどね」
「ワタクシもですわ! 料理のできなさには、自信がありますの!」
「拙者も。焼いて、食べる位」
「え、みなさん……えぇ――?」
え、お前たちもそんなレベル?いや俺も人のことは言えんけど、よくそんなんでノリノリ参加する気でいたな二人とも。
そして、二人の発言を聞いてセラ姐の顔がサッと青ざめていくのが分かる。
何を間違って俺たちにこんなことを頼んだのか知らないが、あれだな。頼む相手を間違えたな!
「ま、まあ、あれですよ……グルフェス、頑張りましょうね!」
「え? あ、ああ、ソウデスネ」
セラ姐の心が折れた音が聞こえた。その目はどこか虚ろで、明後日の方向を向きながら人形のようにコクンと頷いた。
今日はセラ姐のいろんな姿が見れたな。もう大満足したことだし、帰っちゃおうかな。
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