99話 ゴーレムの群れ、略してゴーレ群
絶対に麻痺しないはずのモンスターを麻痺させてしまい、妙な空気が流れる。しかしそれを破ったのは、意外にもベルだった。
「……そ、そういえば、マヒルさんは元々記憶喪失でしたわよね?」
「へっ? あ、あぁ、そうだな」
あっぶねー、今の今まで忘れてたわその設定。何かと便利だから、異世界に来たばかりの頃は周りにそう言ってたっけな。
「ですから、きっとあなたが使っているものは本来の麻痺とは似て非なるものなんですわよ、きっと」
「あ、あぁ、そうだな、多分」
俺はもう、脂汗だらだら。今はただ、ベルに同調するしかできん。
「……まあ、なんだっていいさ。 強力なスキルであることに変わりはないし、そのおかげで我が必殺技も華麗に決まったことだしな! ハッハッハッハ!」
そう言ってクルスは高笑い。
ガレオとマルケスも、とりあえず納得しているようだ。危なかったぁ……ベル、まじサンキュー。
俺はこそりとベルに耳打ちする。
「すまん、助かったわ。 この恩は串焼きで返す」
「ふふん、ゴチになりますわ」
ベルは小さくそう言うと、ニッコリと微笑んだ。
「さて、パライザーよ。 まだまだ今みたいなのがたくさんいるぞ……地獄へ進む準備はできたかい?」
「へっ、望むところだ。 俺の行く手を阻むものは、巨大な石の塊だろうとも、その時を奪ってやるまでよ」
「フフフ……そう来なくてはなぁ! いくぞ!ガレオ、マルケス!存分に暴れるがいい!」
合同パーティーVSゴーレム軍団。
いざ、尋常に勝負だ――!!!
* * *
「うわあぁぁぁ――ッ!!!」
俺たちは走る。叫び、駆ける。
何故って?ゴーレムの数が多すぎるからだよぉっ……!
一体のゴーレムを華麗に倒した勢いにのって、総攻撃を仕掛けたはいいものの俺たちは数を見誤った。少し進むと、十体を優に越える程のゴーレムが、それこそワラワラと溢れていた。
苦し紛れに、近くのゴーレムを三体倒したところでスタコラ敗走。いや、戦略的撤退というやつだ。
「く、クルス! なんだよあの数は!?」
「いや、はは、分からん! 増えてた!めっちゃ増えてた!」
「はは、じゃなくて!」
俺たちはひた走る。叫び、駆ける。
幸いにも、やつらの足は遅い。程なくして追跡の手はやんだ。
「はぁ、はぁ……ようやく、撒けましたわね……!」
「……うん。数、多すぎ」
「はあ、ふう……やーばかったな。まとめて麻痺かけても、あれじゃあ倒しきらんな」
そう、問題は数だけでなく、個体撃破の難易度もある。一体倒すのに、大技を二、三発叩き込まないと倒せない。クルスがいくら強くても、これじゃあMPが持たないだろう……
何かいい手は――
「……おい、パライザー。今、「まとめて麻痺」と言ったか? できるのか、そんなことが」
「え? あぁ、十体位なら一気に動きを封じられると思う」
「フフッ……つくづく規格外な男だな、おぬしは。 よし、それならば、我が最強の必殺技でまとめて蹴散らしてくれよう」
そう言ってクルスはマントをバサつかせる。
「まじか……! まだそんな奥の手を持ってたのかよ!」
「フフ、まあな。 しかし、発動には少々時間を要する。つまり、おぬしの力が必要という訳だ」
クルスはニヤリと笑う。俺も応じてニヤリと笑う。
いいだろう、俺とクルスの魂の絆の力、見せてやろうじゃねえか……!
* * *
「うわあぁぁぁ――ッ!!!」
俺たちは走る。叫び、駆ける。
何故って?これが作戦だからだよ!
「――っし、クルス、どうだっ!?」
「いけるぞ、パライザー!!」
「おうっ! まとめて止まれぇ、【麻痺連鎖】!!」
バリ、バリィ――
ゴーレムたちの間を稲妻エフェクトが駆け巡る――!砂煙をあげて迫っていた巨影群は、瞬く間に小刻みに震えるただの岩塊と化した。さあ、舞台は整ったぜ、クルス!!
ヒュッと空気が冷たくなった。まるで、ここ一帯の魔力がクルスの元へ集束していくような、そんか感覚。クルスは黒いマントをバサバサとたなびかせ、蒼黒く輝く剣を天高く掲げる。
「フフフ……フハハハハハ……! 今こそ約束の時――地獄の底より轟く破滅の声に、天は鳴く。唸れ、雷鳴!大地よ轟け!【閃光雷極嵐】!!!」
空高く、黒雲が渦を巻く。一瞬、一際大きく光ったかと思うと――
バガアッ――!!ドガバリイッ――!!
無数の雷が降り注ぎ、巨大な岩のことごとくを石片へと変えていった。
そして、後に残ったのは静寂――
耳の奥に雷鳴の残滓がかすかに残り、大地が焦げた匂い鼻をつく。コロンと転がった"元"ゴーレムの石ころが、戦いの終わりを告げた気がした。
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