9話 いざ、冒険者試験 ~元浪人生の力、とくと見よ~
冒険者ギルド。
それは、すべての冒険者が目指す場所。名誉と金、力と飯を求める者たちが蠢く、生と死と契約の十字路──
「……ってのはゲームの話だよな」
現実のギルドは、思ってたよりちょっと地味だった。
善は急げ、ということで俺たちは宿屋に泊まった翌日、早速冒険者ギルドへと向かった。
「いらっしゃいませ。このギルドは初めてでしょうか」
受付にいたのは、きっちり七三分けの眼鏡のお姉さん。いかにもマジメ一徹って感じで、こっちを見る目もどこか冷たい。
ま、これくらいで物怖じしたりはしないさ。なんたって、俺たちは今から冒険者になるんだからな!
「たんぽぽ亭のミレナさんの紹介で来ました。俺たち、冒険者登録したいっす!」
「……あの宿屋の? ふぅん。じゃあ、こちらに記入を。年齢、名前、特技、既往歴、持病、魔力適性、あと好きな色も記入して」
「好きな色……?」
「統計的に、黒が多いのよ。言動に難ありの人はね」
(うわぁ、偏見きたぁ!)
内心ツッコミながらも、俺とベルはそれぞれ用紙に向かう。名前欄に『マヒル=パライザー』と記入し、得意技の欄には「麻痺」とだけでは足りず、マヒ、麻痺、PARALYZEと全部書いた。アピールは大事。
「では次に、筆記試験です」
「えっ、実技じゃないの!?」
「識字率の確認を兼ねています。あと、最低限の倫理観を問う内容ですので、よく読んでくださいね」
俺たちは簡素な部屋に通されると、本当に筆記試験を始めることとなった。……まさか、異世界に来てまでこんな試験をするとは……うっ、浪人時代の悪夢が胸を締め付ける……!
しかし、試験と言いながらも一般常識を問うような問題ばかりで、正直RPGを多少やっていれば誰でも受かるような問題だった。
ーーー
【問5】戦闘における最も正しい戦い方はどれか。適切なものを選べ。
A:己の拳で語り合う
B:剣や斧など武器を用いた近接戦闘
C:魔法での遠距離攻撃
D:毒・麻痺・睡眠などの状態異常を使った戦法
ーーー
(これは……! 迷わずDだ!)
その後も戦術指南やモンスターの基本情報など、苦戦することもなくスラスラ書き進め――筆記試験は無事終了!
そして結果発表!
「ええと、どちらも合格です。ベルフィーナ=エーデルワイスさん、あなたはギリギリでしたがね。あと、マヒルさん」
(なになに、全問正解のご褒美的なやつか!?)
そんな俺の甘い期待は、受付のお姉さんの冷たい視線にぶち壊される。
「マヒルさん、あなたの回答には少し倫理観に欠ける点が見受けられます。特に……状態異常スキルに対する偏愛ですね」
「偏……愛……?」
俺の……麻痺スキルへの想いを、偏愛と断ずるだと? いやいや、これは完全に純愛なんだが!?
「この世界では、武器による戦闘、もっと言えば拳による拳闘が最も美徳とされています。そんな常識を前提にした設問に対して、あなたは……ことあるごとに麻痺、麻痺、麻痺……と」
俺はこの時、どんな顔をしていたんだろうか。少なくとも、血管がブチギレそうになる感覚だけは覚えている。
(武器? 拳だ? 馬鹿を言え……麻痺こそ、至高だろうが……!)
「……ああ、えっと、その」
「この人、記憶喪失なのでそういう一般常識に欠けるところがあるんですの。後でワタクシからよく言っておきますので」
「ベル……」
ベルが咄嗟に助け船を出してくれたおかげで、なんとかかの場を切り抜けられた。受付のお姉さんは「そうですか」とため息混じりに言うと、冒険者カードと呼ばれる手帳を俺たちに渡してきた。
「ともかく、今日からあなた方は冒険者となりました。その名に恥じぬ働きと、ギルドへの貢献を期待します」
こうして、俺たちは晴れて冒険者となった。……俺の心は、生憎の曇天だが。
でも、思わぬ所で助けてくれたベルには、ちゃんと感謝しないとな。
「ベル、さっきはありがとう。ちょっと言葉に詰まっちゃってさ」
「……ふん、当然のことをしたまでですわ。それに、ワタクシ一人で冒険者をやるなんて、真っ平ごめんですからね」
吐き捨てるように言いながらも、どこか気まずそうに目を逸らすベル。もしかしたら、彼女なりの気づかいなのかもしれないな。
胸につっかえるものはあれど、俺たちは無事に冒険者となった。ここからだ。ここから、俺の麻痺スキルによる一方的展開が幕を開けるのだ!
待ってろよ異世界。お前たちが異端とする麻痺の力、この俺が身を持って世界に証明してみせるわ!
俺は麻痺の力でいつか必ず、冒険者のトップに立ってやる……!
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