【プロローグ】麻痺に生き、麻痺に死ぬ者
俺の名は狩生真昼。
二浪中の引きこもりゲーマーにして、麻酔医を志す者だ。
趣味は「状態異常プレイ」、特に麻痺。特技は……敵の動きを止めること、かな。ゲームの中で、だけど。リアルでは誰の心も、足も止められなかったからな……!
きっかけは中学時代。適当に始めたRPGで、「麻痺の追加効果」を持つ短剣に出会ったんだ。
最初はただのオマケ性能だと思ってた。でも、ある時気づいたんだ――動けない敵をフルボッコにする快感を……!
攻撃力? 要らねぇ。回復魔法? 甘え。
俺に必要なのは、ただひとつ――麻痺だ!
それからというもの、あらゆるゲームで「麻痺ビルド」にこだわり抜き、ついに「状態異常で世界を制する男」と自称するまでに成長(?)した。
リアルの偏差値は下がったが、ゲーム内のランキングは天井知らず。
世間ではそれを「現実逃避」と呼ぶ。知らん、俺は“真実”と向き合ってる!
──そんな俺の人生は、唐突に終わりを告げた。
「……なんか、胸が……おかしい……?」
深夜三時、状態異常縛りプレイの真っ最中、俺はキーボードに顔面ダイブした。
――死因:心臓麻痺。
完璧なオチじゃないか! むしろ本望だろう!
麻痺に始まり麻痺に終わる人生……!
目を閉じるその瞬間、俺は叫んでいた。
「最高に……痺れたぜ……!」
──そして、目を開けたら真っ白な空間にいた。
何もない白。空中を舞う光の粒。そして、神々しい美女が一人。
金髪碧眼、完璧な造形。だが表情が、死んでる。あ、これが転生担当の女神か。
「……あなたは異世界に転生します。一つだけ、力を授けましょう」
キターーーッ!! テンプレ展開! 異世界転生モノの開幕だぁ!
俺はビシッと指を立てて宣言する。
「麻痺の力を。できるだけ強力なやつを頼む」
女神の目がピクリと動いた。
「……え? それだけで? 他にもこう、火を操る力とか、剣の才能とか、魔法全般とか……?」
「いらん。俺の魂は、麻痺と共にある。下手に盛ったら台無しだろ?」
「は、はあ……。でも、それだと“麻痺しかできない”んですけど……?」
「それがいいんだよ! それ“だけ”で俺は十分強い! いや、強くなる。強くあるべきだ!」
女神は口を真一文字に結び、目を伏せた。
なんかすごく「またこのタイプか」みたいな顔してる。
「……じゃあもう、知らないですよ。はい。スキル【麻痺】、強化版を授けます」
「感謝ァ……! これが俺の新たな生き様だ!」
俺は胸を張り、そして高らかに名乗る。
「我が名はマヒル=パライザー! 麻痺を統べし者にして、動きを止めし漆黒の牙!」
自称だけどな。
嬉々として目を輝かす俺を見て、女神が小さくため息をついた。そして――
「たしかに唯一無二……いえ、誰もやりたがらないだけですけど」
こうして、スキル【麻痺】ひとつで異世界に転生した俺の、痺れるような迷走冒険譚が始まった――!
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