第9話『魔王と仕掛け爆弾と、ちょっと祭りの余韻』
お祭りの翌朝。空は快晴。
だが村の広場は、地面が焼け焦げ、干物は空に散り、謎の爆発痕が数箇所。
見た目は戦場。
「……ねえ、私たち、祭りしたんだよね?」
「……一応、そういうことになってる」
「記憶にあるのは、爆発、火花、眉毛燃えたカケルくん」
「あと『カケル爆発しろ』の空文字ね」
「許さんぞクロトぉぉ!!」
現在、後片づけ真っ最中。
カケル、ミナ、クロト、そしてシエルの四人で破壊された広場をどうにか元に戻していた。
「っていうかさ……魔王って、何してんだろうね?」
クロトが、道端の丸太を蹴飛ばしながらつぶやく。
「え? 魔王? 何そのRPG風な言葉」
「え、お前知らねえの? この世界、魔王いるんだぞ?」
「まじで!? まだRPGだったのか!!」
「厳密には“古の魔王”って呼ばれてるけどな。
今はどこにいるか不明、っていうか封印されたままじゃなかったっけ?」
そこに、タイミングよく通りかかる情報屋風の老人(自称・元賢者)。
「おお、魔王の話かね!若いのう! よろしい、ワシが語ってやろう!」
「いや、ちょっと今忙し……」
「聞けい!これは世界の命運に関わる話じゃぞ!」
「はいはい分かりましたよどうせ暇ですとも!」
【回想:千年前の魔王】
世界がまだ混沌に満ちていた頃、ひとりの男が“魔王”と呼ばれた。闇の力を操り、七つの国を一夜で滅ぼし、
笑いながら焼き鳥屋を開いた男だった。
――え?
「いや待って、焼き鳥屋!?」
「うむ。彼は人類を滅ぼす気など毛頭なかったのじゃ。ただの焼き鳥マニアだったんじゃよ……」
「うっそだろおおおおお!?」
「しかし、鳥の国が彼の屋台営業を禁止したため、怒り狂って国ごと焼き鳥に……」
「焼き鳥ってそういう……いやちょっと待て」
「その後、“焼き鳥の自由”を掲げて革命を起こすも、
神の怒りに触れ封印された……。
今もなお、彼は“至高の焼き鳥を完成させる”ため、闇の中でレシピを練り続けている」
「なんだこの魔王。アホだ!!」
その晩。
「ねぇ、カケルくん」
夜空を見上げながら、シエルがそっと言った。
「もし魔王が本当に蘇ったら、どうする?」
「え? そりゃ、まず話し合い……かな? 何が食べたいかとか」
「……うん。やっぱり、そう言うと思った」
ふっと微笑む彼女は、今日だけ少し大人びて見えた。
「ま、でも今はまず、焼き鳥食いたいな」
「それが……ある意味一番危険なフラグなんだけどね」
そんな時。
「おーい! カケルー!」
クロトが叫びながら、何か大きな箱を抱えて走ってきた。
「試作品完成したぜ! “対魔王・爆裂鳥型迎撃爆弾”だ!」
「名前がピンポイントすぎるうえに嫌な予感しかしない!!」
翌朝、村の鶏小屋が爆破されていたという。
魔王の影はまだ遠い。
だが“焼き鳥の匂い”は、確実に近づいていた――。
(第9話 完)