第7話『脱げるスライムは羞恥心でできていた』
「カケルくん!今日のクエストはこれだよっ!」
ミナが持ってきた紙を見て、カケルは眉をひそめた。
> 【クエストNo.004】
内容:近くの森に“スケベスライム”が発生。村娘たちのお風呂を覗こうとしているので退治してください。
危険度:★★☆☆☆
「いやその名前からしてアウトじゃねえか!!なんでそんなピンポイントで下心に寄せてきた!?」
「だって、見た目が“全裸で恥ずかしがってる人間の幻影”らしいよ?」
「もうスライムじゃなくて性癖だろそれ!!」
というわけで向かったのは、村外れの小さな温泉地帯。
温泉に張った結界の向こうから、じっとりとした視線を感じる。
「出た! 見て! あれが“スケベスライム”!!」
木陰にうごめく半透明のスライム。その内部にはなぜか――
「……服、着てない!? しかも、恥ずかしそうにこっち見てる!!?」
「こいつ……見せるつもり満々で“見られたい”欲の塊だ……!!」
※注:分類は魔物ですが、性質はほぼ露出狂です。
「さぁカケルくん!いってらっしゃい!」
「お前も来いよぉぉぉぉおお!!」
スライムとの接触。内部から幻影が発生し、カケルの目の前に現れたのは――
「ミ、ミナ!?」
「え?私!?え!?え!?何それ!?ちょっとカケルくん見てないで!!」
「違う!違うんだミナ!これはスライムがっ……!!」
――ズドン!!!
またしてもワープが暴発。今度は幻影ミナの胸元に顔から突っ込んでしまう。
「ぎゃあああああ!!!」
「最低だよカケルくん!!!」
「だから違うううう!!!」
その頃、遠くの空から一人の神が状況を見ていた。
「……なるほど。“見られたいスライム”ねぇ……カケルくん、楽しそうじゃない」
どこからともなく雷が“バチバチ”と舞いはじめる。
なんとかスライムは討伐(というか、精神的に追い詰めて逃げられた)。
結界の強化と、温泉の清掃を手伝って任務完了。
帰り道、ミナはちょっとだけ頬を膨らませていた。
「……もう、知らない。カケルくん、スケベだったんだ」
「誤解だっつってんだろ!? お前が出てきたからビビってワープしちゃっただけで……!」
「……本当に?」
「……うっ……」
沈黙の時間が流れる。
そのとき。
「――へぇ。スライムに惑わされるくらい、理性ないんだ?」
唐突に現れたのは、巫女服+眼鏡姿のシエル。雷をまといながら、ニコニコしている。
「だって! 本物じゃないって言ってるだろ!? むしろあれは精神攻撃で!!」
「じゃあ今日は、あなたの理性を“神の羞恥訓練”で鍛えてあげる」
「ちょっと待てそれは何だ!? 待って女神!待ってくれえええ!!!」
その夜、村の片隅で、なぜか目隠し+鼻栓の状態でスクワットさせられているカケルの姿があった。
「……なんで俺こんな修行受けてんの……」
「“スケベ心に打ち勝つ男”に育ってほしいだけよ?」
「いや方向性が宗教じみてる!!!」
こうしてまた、カケルの理不尽な異世界ライフは続くのだった――。