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遠く離れた空の下(外資系企業における権力抗争と生存競争)  作者: 大和
遠く離れた空の下「(序章)権力抗争・ベンチャー企業で働く意味と意義」編
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「遠く離れた空の下」第1章 - 第7話【アジアパシフィック全体会議】

◇◇◇ ここまでのあらすじ ◇◇◇

大手企業からベンチャー企業モゾパスへ転職した大和。多忙な日々を過ごすが担当製品であるダラXを成功させ本国の本社から表彰を受け、その結果チームの結束も強くなりさらなる新製品の発売に向けて忙しいながらもやりがいのある充実した日々を過ごしていた。そんな中モゾパス社が誇るヒット商品「シェーゴAir」のリコールと欠品が発生。これまでモゾパスを牽引してきた特許技術の開示を余儀なくされ一気にモゾパス社の経営状況に暗雲が立ち込めるのであった。

◇◇◇ 部門売却 ◇◇◇

モゾパス社の株価はあっという間に下落した。一方でモゾパス社が持つ技術力は市場でも高く評価されている事からTOB(敵対的買収)の噂が業界内に飛び交う事になった。

大手企業数社の名が噂されそのうちの1社は大和が以前勤めていたクルフト社であった。

本国の経営陣からはTOBは噂であって、社は必死で立て直しを図っており、結果として社を立て直す事は可能だと繰り返した。

不安な気持ちがなかった訳ではなかったが「どうにかなるのではないか。」と漠然とした楽観をもって大和は状況を観察していた。

数週間後「コンサルティング部門」の売却が突如発表された。

モゾパス社は大きく3つの部門から構成されていた。「シェーゴAir事業部」「コンサルティング部門」そして大和が所属する「新製品事業部」である。

シェーゴAirの立て直しの一方で新製品事業部は将来の成長の礎となる事業部であった。

モゾパス社にとってキャッシュを用意するための「コンサルティング部門」売却は仕方のない選択であったに違いない。

「シェーゴAirをサポートしてきたコンサルティング部門はシェーゴAirが業界トップのポジションに立ったためその役割を終えた。それが売却の理由だ。」と経営陣から発表が行われた。

コンサルティング部門には10名近い社員が在籍していた。彼ら・彼女たちは次の月には溜池Dビルを出て売却先のビルへ移っていった。部門長はUSの大学を出た若い男で毅然とした態度で最後の挨拶を済ませ会社を去った。

これがベンチャー企業、特に外資系ベンチャー企業なのだ。と大和は痛感した。


◇◇◇ シンガポール出張 ◇◇◇

数か月が経ち相変わらずTOBの噂は業界を駆け巡った。そして大和がモゾパス社の前に勤めていたクラフト社が正式にTOBを宣言した。

「なんて皮肉な話なんだ。」

大和はよりによってクラフト社がTOBをかけてきたことを恨んだ。

モゾパス本社はTOBに対抗して自社営業を続ける事を宣言した。

例年12月には翌年のビジネスプランを決定・発表する会議が開催される。今年ははじめてアジアパシフィック合同での会議がシンガポールで開催される事となった。

大和にとってシンガポールははじめて訪れる地であった。出張でアメリカやヨーロッパへは年に数回足を運んだがシンガポールへ行く機会には恵まれなかった。

この年の会議は贅沢を極めたものであり「買収される前に使っちゃえってことだよ。」みな冗談交じりにそう話すのであった。

会議はシンガポールが誇る高級ホテル「マリーナベイサンズ」のコングレスセンターで開催され、マリーナベイサンズに宿泊する部屋が用意された。

数日間の会議の中でビジネスプレゼンテーションが1日開催されたが翌日は自由時間が与えられ3日目にはレクリエーションが行われた。

アジア各国のモゾパス社員とチームを組み島内の観光地にあるチェックポイントを探して回るのだ。色々な場所を周ったと思うが今でも強く記憶に残っているのはエスプラネードである。

そのドリアンのような屋根を持つ不思議なビルのデザインに大和は魅了された。

2日目の自由時間に大和は1人で「リトルインディア」「アラブストリート」「オーチャード」「ホランドビレッジ」を周った。

シンガポールの南国特有の蒸し暑さが苦手な同僚もいたが大和はその気候を気に入った。はじめてのシンガポールは新鮮で大和を魅了した。

「いつかシンガポールで生活してみたい。」

現実感はないが大和はシンガポールでの生活にあこがれを持った。海外でいつか働いてみたいと明確な意思をもったのはこの時がはじめてであったかもしれない。

レクリエーションの行われた3日目の夜には全体パーティが開催された。立食でのパーティはやはりマリーナベイサンズホテルの会場で開催された。シンガポールの夜景を見ながら談笑しタイガービールやシンガポールスリングを手に夜は過ぎていった。途中でCEOがギターを手に登場し壇上でギター弾きながら歌を披露した。

翌日も午前は自由時間となりJALの深夜便で日本へ帰国した。

その翌月クルフト社によるモゾパス社買収が正式に決定したと報じられた。


(つづく)

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