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遠く離れた空の下(外資系企業における権力抗争と生存競争)  作者: 大和
遠く離れた空の下「(序章)権力抗争・ベンチャー企業で働く意味と意義」編
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「遠く離れた空の下」第1章 - 第3話【波乗り】

◇◇◇ ここまでのあらすじ ◇◇◇

営業マンとして成功を収める事に成功し本社企画部門に異動になった大和であったが担当製品がライフサイクルの終盤に差し掛かり製品をプロモーションするための企画を打てなくなり仕事に対するモチベーションが下がっていく。そんな中普段は取り合わない転職斡旋業者からの電話を受け中堅欧米企業と面談を行うことに。先方の丁寧な対応にも関わらず転職に興味を持てない大和は一旦転職活動を封印しようと心に決めた。

◇◇◇ 欧州ベンチャー企業・モゾパス ◇◇◇

ヘッドハンターのダンへ断りの電話をする前にダンの方から電話がかかってきた。

「どうやらご紹介した企業に興味を持てないようですね。先方は次のプロセスに進めるかどうか返事を待っていますがお断りしますか。」

面接を行った企業に断りの電話をする事に気まずさを感じていただけにダンから断ってもらうのは助かるなと感じた。

「そうですね。断ってください。転職も一旦やめようと思います。」

「大和さん。」

ダンはここからもう1社の話をはじめた。

「欧州系ベンチャー企業・モゾパス社の話をしましたよね。一度会ってみませんか。モゾパス社は新たな領域での日本での事業を開始しようとしていて企画部門の専門家を探しています。管理職で大和さんの部下になる社員も同時に探しています。悪い話ではないと思いますよ。」

ベンチャー企業で働く事には興味をもっていなかった。この業界も再編が続いておりいつ買収されるかわからないような会社で働く事を望んではいなかった。

「ベンチャー企業だから心配かもしれませんが、経営状態もキャッシュフローもとても健全な会社で成長が見込まれます。大きな会社で昇進していくことは大変ですが、ベンチャーで会社と一緒に成長するという選択肢も一度検討してみてはどうですか。資料を送っておきますので見ておいてください。他にも候補者がいますのでそんなには待てません。水曜日に電話します。」

夜送られてきた財務諸表や資料を入念に確認した大和はモゾパス社の将来性に驚くのであった。モゾパス社はキャッシュフローが健全であり、そのユニークなビジネスモデルはハーバードビジネススクールで使われるディスカッション用のビジネスモデルになってもいた。

興味は感じたが今勤めている大企業から転職してベンチャーに行こうとはやはり思えなかった。

水曜日にダンから電話があった。ダンにはやはり興味がない事を伝えたのだが、

「モゾパス社は大和さんの経歴と業界での評判から大和さんの入社を熱望しています。話を聞くだけでもいいので会ってみてください。大丈夫です。モゾパス社の期待値はコントロールしておきます。大和さんはまだ転職を決めていない事も伝えておきますので気を楽にして先方と会ってみてください。」

ダンから強く押された大和は少し面倒になってきた。

「一度会って断ればいいか。」

「では来週火曜日の18時に溜池山王Dビルの30階受付で名前を伝えてください。面接の準備はすでに整っています。」


◇◇◇ 面接 ◇◇◇

溜池山王Dビルは近年に建設された話題のテナントビルでそこの30階全フロアがモゾパス社の日本本社であった。

「ベンチャー企業は羽振りがいいもんだな。」

感心しながら受付で名刺を出し会議室へ通された。

「まもなく弊社事業部長の告川がまいります。しばらくお待ちください。」

広めの会議室に一人残され居心地の悪さを感じる大和。5分ほどで面接官が入室してきた。

「はじめまして、私が本日の面接を担当させていただきます事業部長の告川です。そしてこちらは代表取締役の町田です。」

社長まで面接に現れた事に驚いたしわざわざ時間を作ってくれたことに感謝をした。

告川、町田はオープンで明るい性格で面接は堅苦しさはいっさいなく、業界の現在地や将来像について意見交換を行った。面接というよりは座談会のようだなと大和は感じていた。

「弊社としてはなるべく早く企画担当者を探しています。なるべく早く決断してください。連絡を待っています。」

告川と町田と挨拶をしてDビルから溜池山王駅へ向かう中大和は考えた。

「長期のキャリアなんて考えて仕事をしてこなかったし、これまでも目の前の事をこなして次々と来る波に乗ってきた。今回も新たな波なのかもしれない。リスクはあるがこの波も乗りこなせるかもしれないしその先にきっと次の波がくるのだろう。」

転職経験のない大和は不安を感じながらも自分自身がモゾパス社への興味を持ち始めている事を感じるのであった。

溜池山王駅に繋がるエスカレーターの前で一旦立ち止まり大きく息を吐いた。11月末の東京の夜は寒く吐く息は白い。多くの会社員が大和を追い越しエスカレーターで駅へ急ぐ。その姿を眺めながら「よし。」と小さく声を出しエスカレーターへと進んだ。


(つづく)

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