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遠く離れた空の下(外資系企業における権力抗争と生存競争)  作者: 大和
遠く離れた空の下「(序章)権力抗争・ベンチャー企業で働く意味と意義」編
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「遠く離れた空の下」第1章 - 第1話【気が付けば遠く離れた空の下】

海外駐在員の筆者が経験した「社内権力抗争」を題材にした小説です。よろしければご一読いただけますと幸いです。

<気が付けば遠く離れた空の下>

ほぼ赤道直下の国「シンガポール」は一年を通してほぼ同じ時刻に日が昇り、日が沈む。朝6:30頃になるとパシフィックコーエルという南国の鳥が甲高い鳴き声で朝を告げる。

大和はシンガポールのマリーナベイエリアに住んでいた。目の前に広がるマリーナエリアが気に入ってほぼ即決でこのコンドに住む事を決めた。

ベッドからはマーライオンを見る事も出来る絶景が売りのコンドである。

COVID19も落ち着きマーライオンは毎日その口から水を吐き出すようになった。

朝のシンガポールは爽やかな風が吹き一日のうちでもっとも心地よい時間である。

「どうして俺はここにいるのだろう。望んでいた自身の生活はこうだったのだろうか。」

大和は目覚めてベッドの中でよくそう考えた。

責任もあり世間一般から言えば羨望のまなざしを受ける事もある「海外駐在」という生活。

「とびぬけて優秀でなかった俺がここにいるのは運がよかったこともある。」と大和は考えていた。

シンガポールでの生活は楽な事ばかりではなかったが大和は毎日が充実して感じられた。

慣れない異国で言葉の壁を感じる事があるものの仕事でのチャレンジは前向きなものばかりで自分自身が成長していくことを実感する事もあった。

そして何より大和が今の環境を歓迎する理由、それは「社内政治」がここにはない事だった。


<営業マンな日々>

地方では名の知れた大学を出た大和であったが就職活動では首都圏や関西圏の一流大学出身者を前に苦戦を強いられた。それでも諦めずに就職活動を続けて入社したのは欧米系の外資系メーカーであった。

地元を離れ関西圏で営業をスタートした大和は毎日得意先を訪れては自社製品の販促に努めた。しかしながら大和には自分自身が毎日行っている業務そのものに疑問を感じていた。自分でなくても誰でも替えがきく仕事。得意先では製品の知識よりも人間関係が重視される。「そんなんええねん。」と製品説明をする度何度も顧客から言われ「あんたは何してくれんねん。」と声なき声でプレッシャーを受ける日々。「この仕事は向いていないかもしれない。」と大和は何度も考えた。

そんな大和に転機が訪れたのは会社の合併である。

入社した会社が同じく欧米系の企業を買収する事になり、買収先の新製品の担当者が必要となったのだ。この製品は専門性が高く、人間関係重視の営業スタイルが主流であった当時においては営業マンが嫌う製品であった。大和は最後の賭けだと思いこの製品の営業チームへの異動を希望したのだった。

この選択は大和にとって最善であった。人間関係を構築するために無理に顧客に迎合したりプロ野球の結果や顧客との会話のネタを探す事よりも(顧客との会話がすぐ途絶える大和を見て上司は得意先への移動中にAMラジオを聴く事を命じていた)自分で製品やその周辺知識を学び、その知識で顧客と専門的なディスカッションをする事が出来るこの新製品の営業は大和には向いていた。

数年後大和はトップセールスマンになりその翌年、本社企画部門への異動を命じられたのであった。


<本社の現実>

営業を担当する社員だけでなく本社勤務は花形である。大和も本社に抜擢された事を誇りに感じそして自身の活躍を想像した。

営業担当者として想像していた本社勤務は華々しいものであった。しかし実際に本社で働き始めてみるとその業務は大変地味なものであった。

本社勤務としては新人に近い大和はエクセルなどのツールも周囲に比べると技術が低く、本社企画部門に必要とされる専門知識も皆無である事を痛感するのであった。

英語も含め努力をかさね、2年後大和はとある製品の企画を担当する事になった。決して楽な日々ではなく精神をすり減らすような毎日を過ごして掴んだ結果であった。

企画部門として製品を担当するという事は全国の営業員たちの販売戦略を作成する事も意味していた。そして大和が担当する事になった製品には強力な競合が存在していた。大和は競合を凌駕するために新たな戦略を打ち出したがなかなか結果が出ず、営業の責任者たちからは罵倒に近いクレームを受ける事すらあった。それでも大和が努力を続けれていれたのには企画という仕事のやりがいがあったからであった。

企画の仕事は販売戦略の作成にはとどまらない。欧米に本社を置く本国から投資を受けるためのプレゼンテーションやそのための海外出張。担当製品の国内販売に影響を及ぼす専門誌の記者との関係構築(営業の時とは違い専門的な意見をぶつけあう事で関係を構築出来た)など業務は多岐にわたった。こういった仕事は内向きな仕事として営業チームには理解できないものの(営業チームはそれらの業務すら知らない。大和も知らなかった。)大和はそれらの仕事にやりがいを感じ、そして結果を出して行った。

大和は数年してやっと本社で自分の居場所を見つける事が出来たのである。

しかしながら大和にとって充実した本社企画での仕事は大きな変化を迎える事になる。


(続く)

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